不動産決済実務入門

決済とは

不動産の売買契約

不動産の売買契約は通常売買契約締結日に所有権が移転しない特約(所有権移転時期特約)が付されている。所有権移転時期特約では売買契約締結日に買主が売主に手付金を支払い、残代金の支払日に不動産の所有権が移転する。

そして、残代金の支払日には不動産の所有権が移転するので当然不動産登記が必要である。また、固定資産税の清算もこの日を基準としてなされる。

このように残代金支払い・固定資産税の清算・登記などを一気に済ませることを「決済」という。そして、決済が行われる日を決済日といい、決済日の売主・買主・司法書士の立会いを決済立会いという。

融資の申込み

ところで、売買契約の締結が終わると、買主は融資を受ける金融機関に売買契約書を提出して本融資を申し込む。なお、この融資の審査が通らない場合にはいわゆる融資特約により売買契約は解除される。

同時履行の担保

また、売買契約では売主は代金全額の支払いを受けなければ買主に所有権を移転したくない。他方、買主は買主に所有権を移転しなければ代金全額を支払いたくない。これはいわゆる同時履行の抗弁権である。

しかし、不動産登記は即日登記が完了しないので厳密な同時履行は実現できない。そこで、決済では決済日における司法書士による合図によって不動産登記の完了を擬制し、残代金の支払いを許可して同時履行を実現する。

このように不動産売買においては司法書士は売主・買主の同時履行を担保しているので、決済は売主・買主・司法書士が立会うのが王道である。しかし、最近は立会いをしない決済が増えつつある。

というのも、決済日は金融機関の融資があれば平日に設定されるところ、売主・買主とも書類上のやりとりをするだけである。よって、わざわざ平日に仕事の休みをとってまで決済日に立ち会う実益は低い。これが立会いをしない決済が増えている理由である。

司法書士指定

地方における不動産売買の登記は買手の宅建業者が司法書士を指定し、この司法書士が売主・買主に必要な登記を一括して受託することが多い。無論、売主や買主が司法書士を指定することも可能である。また、地方では金融機関が司法書士を指定することはほぼない。

決済の流れ

立会あり

まず立会い有の決済の流れを説明する。

手順1
決済日に対象不動産の登記情報を取得する。
手順2
決済日に本人確認・意思確認をする。
手順3
決済日に登記の書類を受領する。
手順4
本人確認・意思確認・書類確認が完了すると司法書士が融資のゴーサインをする。
手順5
売主が入金確認したら立会いを終え、登記申請をして金融機関に受領証を送付する。

立会なし

次に立会い無の決済の流れを説明する。

手順1
決済日前日までに本人確認・意思確認、登記の書類を受領する。
手順2
決済日前日までに融資のゴーサインをする。
手順3
決済日に対象不動産の登記情報を取得する。
手順4
決済日に登記申請をして金融機関に受領証を送付する。

違い

このように立会い有の場合には決済日にすることが多く、一日の決済数の上限は3件程度である。これに対し、立会無の場合には決済日にすることは少ないので、一日の決済数の上限は立会有のそれより多い。

しかし、立会無の場合には決済日前日までにすることが多い。そして、立会有の場合と異なり、売主と買主が一同に会しないので、司法書士の意思確認・本人確認・押印書類の収集の手間が物理的に増える。

問題の所在

立会無の決済は例外であり、売主・買主両方の同意があって成立するものである。特に売主は残代金の支払いを受けていない段階で登記に必要な書類を司法書士に手渡すことになる。よって、間違っても司法書士が立会無を強制してはならない。

また、売主が宅建業者の場合には宅建業者が立会無の決済を希望しながら、売主の書類は決済日に渡すことを要求する業者がいる。

このような場合には売主業者に対して立会を希望する旨を伝えると大抵の業者は決済日前日までに書類を渡してくれる。なぜなら、決済立会いは買主・司法書士の権利でもあるからだ。

登記済証又は登記識別情報の確認

初心者が決済で注意をしなければならないことは登記済証又は登記識別情報の確認である。

登記済証

登記済証とは登記所がオンライン指定されるまで発行されていたいわゆる権利証である。

登記所のオンライン指定日は登記所ごとに異なるので、事前にオンライン指定日か確認し、登記済証か登記識別情報かを確認する必要がある。

なお、最初のオンライン指定は平成17年3月であるから、それより前の登記は登記済証である。

登記済証は不動産の売買契約書や登記申請書副本に「登記済」の印と受付年月日・受付番号・受付登記所名が記載されてある書類である。

一括申請された登記申請においては一括申請の対象たる複数の不動産の登記済証は一冊にまとめられている。

登記識別情報

これに対し、登記識別情報は不動産及び登記名義人ごとに発行される。

確認方法

登記済証又は登記識別情報の確認方法は基本的に不動産とその受付年月日・受付番号・受付登記所を確認すれば足りる。

もっとも、土地に合筆・分筆がなされている場合などにはこの確認方法では対応できない。

登記識別情報の通知

ここでは不動産表題部に変更が生じた場合に新たに登記識別情報が通知されるか否かを解説する。

土地の合筆

土地の合筆があった場合には新たな登記識別情報が通知される。

よって、決済においては合筆の際に通知された登記識別情報を利用できる。

また、合筆されたすべての土地の「合筆前の登記識別情報」も利用できる。

しかし、「合筆前の登記識別情報」を確認するには合筆された土地の登記情報をすべて取得する必要があるので手間と費用がかかる。そのため、第一次的には合筆後の登記識別情報の提供を促すべきである。

土地の分筆

土地の分筆があった場合でも新たな登記識別情報は発行されない。

よって、分筆前の登記識別情報を利用する。

建物の合併

建物の合併があった場合には新たな登記識別情報が通知される。

よって、決済においては合併の際に通知された登記識別情報を利用できる。

また、合併されたすべての建物の「合併前の登記識別情報」も利用できる。

しかし、「合併前の登記識別情報」を確認するには合併された建物の登記情報をすべて取得する必要があるので手間と費用がかかる。そのため、第一次的には合併後の登記識別情報の提供を促すべきである。

建物の合体

建物の合体があった場合には新たな登記識別情報が通知される。

建物の分割

建物の分割があった場合でも新たな登記識別情報は発行されない。

よって、分割前の登記識別情報を利用する。

建物の区分

建物の区分があった場合でも新たな登記識別情報は発行されない。

よって、区分前の登記識別情報を利用する。

建物の分棟

建物の分棟があった場合でも新たな登記識別情報は発行されない。

よって、分棟前の登記識別情報を利用する。

土地区画整理法による換地処分

土地の合筆・分筆などが生じている場合と同様に、土地について土地区画整理法による換地処分が生じている場合にも登記識別情報の発行の有無の確認が必要である。

土地区画整理法による換地処分が生じている場合にはまず土地の表題部を確認して土地区画整理法による換地処分の種類を調べる。

すなわち、土地区画整理法による換地処分が生じた場合の土地表題部の記載例は次のものである。

  1. 土地区画整理法による換地処分
  2. 土地区画整理法による換地処分 他の換地〇番
  3. 土地区画整理法による換地処分 他の従前の土地〇番

これらのいずれかに該当するかで新たな登記識別情報の通知の有無が異なる。

土地区画整理法による換地処分

土地の表題部に「土地区画整理法による換地処分」と記載されてあれば土地区画整理法による換地処分によって新たな登記識別情報は通知されていない。

土地区画整理法による換地処分 他の換地〇番

土地の表題部に「土地区画整理法による換地処分 他の換地〇番」と記載されていれば土地区画整理法による換地処分によって新たな登記識別情報は通知されていない。

土地区画整理法による換地処分 他の従前の土地〇番

土地の表題部に「土地区画整理法による換地処分 他の従前の土地〇番」と記載されていれば土地区画整理法による換地処分によって新たな登記識別情報が通知されている。

 

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