既に取引時確認を行っている顧客との特定取引

取引時確認

司法書士又は司法書士法人は「特定受任行為の代理等を行うことを内容とする契約の締結その他の政令で定める取引」を行うに際して本人特定事項の確認を行わなければならない(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条)。

これを取引時確認という(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条6項)。

もっとも、既に取引時確認を行っている顧客については一定の要件を満たせば取引時確認が不要となる。

犯罪による収益の移転防止に関する法律

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十五号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十六号から第四十九号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項
2 略
3 第一項の規定は、当該特定事業者が他の取引の際に既に同項又は前項(これらの規定を第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定による確認(当該確認について第六条の規定による確認記録の作成及び保存をしている場合におけるものに限る。)を行っている顧客等との取引(これに準ずるものとして政令で定める取引を含む。)であって政令で定めるものについては、適用しない。
4 略
5 略
6 略

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令

(既に確認を行っている顧客等との取引に準ずる取引等)
第十三条 法第四条第三項に規定する顧客等との取引に準ずるものとして政令で定める取引は、次の各号のいずれかに該当する取引とする。
一 当該特定事業者(法第二条第二項第一号から第三十八号まで及び第四十号に掲げる特定事業者に限る。以下この号において同じ。)が他の特定事業者に委託して行う第七条第一項第一号又は第三号に定める取引であって、当該他の特定事業者が他の取引の際に既に取引時確認(当該他の特定事業者が当該取引時確認について法第六条の規定による確認記録(同条第一項に規定する確認記録をいう。次号において同じ。)の作成及び保存をしている場合におけるものに限る。)を行っている顧客等との間で行うもの
二 当該特定事業者が合併、事業譲渡その他これらに準ずるものにより他の特定事業者の事業を承継した場合における当該他の特定事業者が他の取引の際に既に取引時確認を行っている顧客等との間で行う取引(当該他の特定事業者が当該特定事業者に対し当該取引時確認について法第六条第一項の規定により作成した確認記録を引き継ぎ、当該特定事業者が当該確認記録の保存をしている場合におけるものに限る。)
2 法第四条第三項に規定する政令で定めるものは、当該特定事業者(前項第一号に掲げる取引にあっては、同号に規定する他の特定事業者)が、主務省令で定めるところにより、その顧客等が既に取引時確認を行っている顧客等であることを確かめる措置をとった取引(当該取引の相手方が当該取引時確認に係る顧客等又は代表者等になりすましている疑いがあるもの、当該取引時確認が行われた際に当該取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等(その代表者等が当該事項を偽っていた疑いがある顧客等を含む。)との間で行うもの、疑わしい取引その他の顧客管理を行う上で特別の注意を要するものとして主務省令で定めるものを除く。)とする。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則

(顧客等について既に取引時確認を行っていることを確認する方法)
第十六条 令第十三条第二項に規定する主務省令で定める方法は、次の各号に掲げることのいずれかにより顧客等(国等である場合にあっては、その代表者等又は当該国等(人格のない社団又は財団を除く。)。以下この条において同じ。)が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認するとともに、当該確認を行った取引に係る第二十四条第一号から第三号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から七年間保存する方法とする。
一 預貯金通帳その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受けること。
二 顧客等しか知り得ない事項その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す事項の申告を受けること。
2 前項の規定にかかわらず、特定事業者は、顧客等又は代表者等と面識がある場合その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることが明らかな場合は、当該顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認したものとすることができる。

規則16条1項の確認

法4条3項は、特定事業者が他の取引の際に既に取引時確認を行っている顧客との取引で、「政令で定めるもの」については、取引時確認を省略できる旨を規定している。

そして、法4条3項の委任を受けた令13条2項は、「政令で定めるもの」とは、「特定事業者が主務省令で定めるところにより、既に取引時確認を行っている顧客であることを確かめる措置をとった取引」としている。

さらに、令13条2項の委任を受けた規則16条1項は「主務省令で定めるところ」について、「次のいずれかの方法で顧客が確認記録に記録されている顧客と同一であることを確認し、第二十四条第一号から第三号までに掲げる事項を記録し、七年間保存すること」としている。

  1. 預貯金通帳その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受けること。
  2. 顧客等しか知り得ない事項その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す事項の申告を受けること。

規則16条2項の確認

また、規則16条2項は、特定事業者が顧客と面識がある場合など、顧客が確認記録に記録されている顧客と同一であることが明らかな場合は、令13条2項及び規則16条1項の措置すら不要であるとしている。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則16条2項の諸問題

面識がある場合とは

規則16条2項の「面識がある場合」とは単に面識があるだけは足りず、特定事業者が確実に本人であると判断できる場合である。

既に行った特定取引とは

規則16条2項が適用される既に行った特定取引は、今回の(取引時確認を省略する予定の)特定取引と同種のものでなくてもよい。

例えば、会社設立の依頼を受け取引時確認を行い、その後にその会社から宅地売買に基づく所有権移転登記手続きの代理の依頼を受けた場合にも規則16条2項は適用されうる。

規則16条1項の記録

法4条1項の取引時確認に代えて、規則16条1項に基づく確認をした場合には、規則24条1号から3号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から7年間保存する。

なお、「規則24条1号から3号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から7年間保存する」とは、規則24条に基づく取引記録等を作成・保存することと同じである。

そのため、規則16条1項に基づく確認をした後、規則24条に基づき取引記録等を作成・保存した場合には別途、「規則24条1号から3号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から7年間保存する」必要はない。

規則16条2項の記録

これに対し、法4条1項の取引時確認に代えて、規則16条1項に基づく確認をした場合には、本人特定事項の確認などの記録をする必要はない。

もっとも、この場合でも規則24条の取引記録等を作成・保存する義務は免除されない。