目次
戸籍謄本等の請求
総説
職務上請求を説明する前に、原則的な戸籍の請求方法について説明する。
戸籍の取得はあくまで本人が請求するのが原則である。
しかし、本人が請求するだけでは業務に必要な書類が揃わないことが多い。
そこで、補完的に認められたのが、職務上請求である。
また、職務上請求は後述の第三者請求の延長線上に認められる制度である。
したがって、第三者請求の要件が具備されていなければ、職務上請求はできない。
もっとも、職務上請求は第三者請求より簡易な方法で戸籍や住民票の請求が可能である。
これは司法書士等の職務の公共性や、司法書士等への高度な信頼に基礎づけられている。
本人等請求
戸籍法は10条1項は、戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下、「戸籍謄本等」という。)の本人等請求について規定している。
請求権者
- 戸籍に記載されている者
- 戸籍に記載されている者の配偶者
- 戸籍に記載されている者の直系尊属
- 戸籍に記載されている者の直系卑属
※本ページ上では上記の請求権者による請求を「戸籍謄本等の本人等請求」と呼ぶ。
請求できる戸籍謄本等
- 戸籍に記載されている者の戸籍謄本
- 戸籍に記載されている者の戸籍抄本
- 戸籍に記載されている者の戸籍に記載した事項に関する証明書
なお、除籍された者も除籍された戸籍謄本等を請求できる。
第三者請求
戸籍法は10条の2第1項は、戸籍謄本等の第三者請求について規定している。
請求権者
以下のいずれかの場合、下記の理由を有する者は請求できる。
- 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合
⇒権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由 - 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合
⇒戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由 - 上記以外で、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合
⇒戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由
※本ページ上では上記の請求権者による請求を「戸籍謄本等の第三者請求」と呼ぶ。
請求できる戸籍謄本等
請求できる戸籍謄本等に制限はない。
住民票の写し等の請求
本人等請求
住民基本台帳法12条1項は、住民票の写し又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票の写し等」という。)の本人等請求について規定している。
請求権者
- 市町村が備える住民基本台帳に記録されている者
- 当該住民票から除かれた者(市町村がその者が属していた世帯について世帯を単位とする住民票を作成している場合)
※本ページ上では上記の請求権者による請求を「住民票の写し等の本人等請求」と呼ぶ。
請求できる住民票の写し等
- 自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し
- 住民票に記載をした事項に関する証明書(住民票記載事項証明書)
第三者請求
住民基本台帳法12条の3第1項は、住民票の写し等の第三者請求について規定している。
請求権者
- 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者
- 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
- 上記以外で、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者
※本ページ上では上記の請求権者による請求を「住民票の写し等の第三者請求」と呼ぶ。
請求できる住民票の写し等
請求できる住民票の写し等に制限はない。
戸籍の附票の写しの請求
住民基本台帳法20条において、住民票の写し等の請求の場合と同様の規定がある。
司法書士の職務上請求
1号様式と2号様式
職務上請求は依頼された業務により1号様式と2号様式に区別される。
1号様式を使用する業務は司法書士法3条に規定される業務である。
2号様式は、他士業で独占されていない業務を司法書士が行う場合に使用する様式である。
2号様式の業務の例として、相続財産管理人や成年後見人の業務がある(司法書士規則31条を参考にされたい)。
もっとも、2号様式を使用する業務では、司法書士に法定代理権がある場合がほとんどである。故に、「取得できる書類の範囲」という観点からみると、2号様式が存在する実益はあまりない。
しかし、2号様式を使用することで司法書士が職務上請求していることが明らかになり、不正請求の抑止に繋がる。
例えば、司法書士が法定代理人として市区町村所定の様式で戸籍謄本等を請求する場合、必ずしも司法書士の職名が記載されるわけではない。
これに対し、2号様式を使用すれば司法書士が職務上請求をしていることが明らかとなる。
戸籍謄本等の3項請求
総説
戸籍法10条の2第3項では、「4項請求以外の」業務で戸籍等謄本等が必要な場合に、司法書士等は戸籍を請求できるとされている。
3項請求で請求できる業務とは、登記申請手続代理業務や裁判書類作成業務などである。よって、職務上請求は1号様式となる。
そして、3項請求は職務上請求書1号様式の「利用目的の種別」欄の「2 上記1以外の場合で受任事件又は事務に関する業務を遂行するために必要な場合」に該当する。
交付請求権者
3項請求は、「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」(戸籍法10条の2第3項)にのみできる。
そして、「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」とは、司法書士が特定の依頼者からその資格に基づいて処理すべき事件又は事務の委任を受けて、当該事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合を指す(基本通達第1ー4ー(1)法務省民一第1000号平成20年4月7日)。
この通達を解釈すると、「特定の依頼者」の存在が必要であるから、依頼を受任していない時点で職務上請求はできない。
また、「資格に基づいて」処理すべき事件又は事務に関するものでなければならない。
よって、司法書士法規定の業務以外の事件又は事務の依頼で職務上請求はできない。もっとも、法定相続情報一覧図の保管及びその写しの交付の申出の代理業務に基づいて職務上請求はできる(不動産登記規則247条2項2号)。
戸籍謄本等の4項請求
総説
戸籍法10条の2第4項では、審査請求や簡裁訴訟代理等関係業務の代理をする場合に必要な戸籍謄本等を請求できるとされている。よって、職務上請求は1号様式となる。
そして、4項請求は職務上請求書1号様式の「利用目的の種別」欄の「1 司法書士法第3条第1項第3号、第6号から第8号に規定する代理業務に必要な場合」に該当する。
交付請求権者
受任している事件について次に掲げる業務を遂行するために必要がある場合に請求できる。
- 司法書士法第3条第1項第3号及び第6号から第8号までに規定する代理業務(同項第7号及び第8号に規定する相談業務並びに司法書士法人については同項第6号に規定する代理業務を除く。)
※司法書士法人は簡裁訴訟代理等関係業務の業務執行をできない(司法書士法36条2項)。ので、当然に職務上請求する権限がない。
「業務を遂行するために必要がある場合」(戸籍法10条の2第4項)とは、司法書士が現に紛争処理手続における代理業務を行っている場合のほか、紛争処理手続の対象となり得る紛争について準備・調査を行っている場合も含まれる(基本通達第1ー4ー(2)法務省民一第1000号平成20年4月7日)。
この通達によると、訴訟の準備段階でも職務上請求ができる。
また、任意の和解交渉を行うために職務上請求ができる。
住民票の写し等の請求
戸籍謄本等の請求と同様の規定が、住民基本台帳法12条3の第2項ないし4項に規定されている。
戸籍の附票の写しの請求
住民票の写し等の請求と同様の規定が、住民基本台帳法20条4、5項に規定されている。