不動産登記における法人の印鑑証明書

法人印鑑証明書に関する政令の改正

経緯

不動産登記における添付書類の簡素化のため、令和元年6月21日の閣議決定で異なる法務局間での法人の印鑑証明書の添付を不要とする決定がなされた。

そして、この閣議決定に基いて改正された法務省令で、法人の代表者又は代理人が申請書や委任状等に記名押印した場合、一定の条件を満たせばその印鑑証明書の添付を要しないとされた。

条件

法人印鑑証明書の添付が不要になるのは次をいずれも満たした場合である。

  1. 省略する法人の印鑑証明書につき、登記官に作成権限がある。
  2. 登記申請書に会社法人等番号を記載する。

適用場面

本改正により添付不要となる印鑑証明書は主に次のとおり。

  • 所有権登記名義人が登記義務者になる場合に添付する印鑑証明書
  • 承諾書・同意書に添付する印鑑証明書
  • 事前通知の場合の印鑑証明書

法人印鑑証明書の根拠規定

不動産登記法

不動産登記法には登記申請書に印鑑証明書の添付を直接義務付ける条文はない。

すなわち、印鑑証明書添付を直接義務付ける規定は不動産登記法26条の委任を受けた政令である。

不動産登記法

(政令への委任)
第二十六条 この章に定めるもののほか、申請情報の提供の方法並びに申請情報と併せて提供することが必要な情報及びその提供の方法その他の登記申請の手続に関し必要な事項は、政令で定める。

政令

不動産登記法26条の「政令」とは不動産登記令である。なお、政令は閣議で決められるから、冒頭で説明したように閣議決定によって法人印鑑証明書の添付を不要にできる。

そして、不動産登記法26条の委任を受けて、印鑑証明書添付について規定しているのは不動産登記令16条、18条、19条である。

不動産登記令16条は登記申請人が申請書に記名押印した上でその印鑑証明書を添付すること義務付けている。

不動産登記令18条は委任者たる登記申請人が委任状に記名押印した上でその印鑑証明書を添付すること義務付けている。

不動産登記令19条は同意又は承諾を証する情報に作成者が記名押印した上でその印鑑証明書を添付すること義務付けている。

但し、不動産登記令16条、18条、19条はいずれも法務省令で定める場合には印鑑証明書の添付を不要としている。

不動産登記令

(申請情報を記載した書面への記名押印等)
第十六条 申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印しなければならない。
2 前項の場合において、申請情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書(住所地の市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、市長又は区長若しくは総合区長とする。次条第一項において同じ。)又は登記官が作成するものに限る。以下同じ。)を添付しなければならない。
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
4 官庁又は公署が登記の嘱託をする場合における嘱託情報を記載した書面については、第二項の規定は、適用しない。
5 第十二条第一項及び第十四条の規定は、法務省令で定めるところにより申請情報の全部を記録した磁気ディスクを提出する方法により登記を申請する場合について準用する。

 

(代理人の権限を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第十八条 委任による代理人によって登記を申請する場合には、申請人又はその代表者は、法務省令で定める場合を除き、当該代理人の権限を証する情報を記載した書面に記名押印しなければならない。復代理人によって申請する場合における代理人についても、同様とする。
2 前項の場合において、代理人(復代理人を含む。)の権限を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
4 第二項の規定は、官庁又は公署が登記の嘱託をする場合には、適用しない。

 

(承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第十九条 第七条第一項第五号ハ若しくは第六号の規定又はその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならない同意又は承諾を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、その作成者が記名押印しなければならない。
2 前項の書面には、官庁又は公署の作成に係る場合その他法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。

法務省令

不動産登記令16条の「法務省令」とは不動産登記規則48条である。

不動産登記令18条の「法務省令」とは不動産登記規則49条である。

不動産登記令19条の「法務省令」とは不動産登記規則50条である。

例えば不動産登記規則48条1号には、登記官に作成権限がある印鑑証明書のハンコを法人の代表者が申請書に押印し、申請書に会社法人等番号を記入すると印鑑証明書の添付が省略できる旨規定されている。

不動産登記規則

(申請書に印鑑証明書の添付を要しない場合)
第四十八条 令第十六条第二項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法人の代表者又は代理人が記名押印した者である場合において、その会社法人等番号を申請情報の内容としたとき。ただし、登記官が記名押印した者の印鑑に関する証明書を作成することが可能である場合に限る。
二 申請人又はその代表者若しくは代理人が記名押印した申請書について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
三 裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の申請書に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合
四 申請人が前条第三号ホに掲げる者に該当する場合(同号イ(6)に掲げる者に該当する場合を除く。)
五 申請人が前条第三号イからニまでに掲げる者のいずれにも該当しない場合(前号に掲げる場合を除く。)

 

(委任状への記名押印等の特例)
第四十九条 令第十八条第一項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 申請人又はその代表者若しくは代理人が署名した委任による代理人の権限を証する情報を記載した書面(以下「委任状」という。)について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
二 申請人が第四十七条第三号イからホまでに掲げる者のいずれにも該当せず、かつ、当該申請人又はその代表者若しくは代理人が委任状に署名した場合
三 復代理人によって申請する場合における代理人(委任による代理人に限る。)が復代理人の権限を証する書面に署名した場合
2 令第十八条第二項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法人の代表者又は代理人が記名押印した者である場合において、その会社法人等番号を申請情報の内容としたとき。ただし、登記官が記名押印した者の印鑑に関する証明書を作成することが可能である場合に限る。
二 申請人又はその代表者若しくは代理人が記名押印した委任状について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
三 裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の委任状に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合
四 前条第一項第四号及び第五号に掲げる場合
五 復代理人によって申請する場合における代理人(委任による代理人に限る。)が復代理人の権限を証する書面に記名押印した場合

 

(承諾書への記名押印等の特例)
第五十条 令第十九条第一項の法務省令で定める場合は、同意又は承諾を証する情報を記載した書面の作成者が署名した当該書面について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合とする。
2 第四十八条第一号から第三号までの規定は、令第十九条第二項の法務省令で定める場合について準用する。この場合において、第四十八条第二号中「申請書」とあるのは「同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と、同条第三号中「申請の申請書」とあるのは「同意又は承諾の同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と読み替えるものとする。