信用購買販賣利用組合の抵当権抹消

信用購買販賣利用組合の手続き

事案

無限責任〇〇信用購買販賣利用組合(以下、「組合」という。)の抵当権(以下、「本件抵当権」という。)の抹消依頼有り。※〇〇は地名

まずは法務局にて、組合の登記簿謄本を取得するのだが、組合の謄本はコンピューター移記されていないので、組合の主たる事務所を管轄する法務局へ登記簿謄本の交付申請した。

登記簿謄本を確認したところ、組合の権利義務は合併により、△△農業会(以下、「農業会」)へ包括承継されていた。※△△は地名

そこで、法務局で農業会の登記簿謄本を取得すると、農業会は解散し、清算結了していた。すなわち、農業会は本件抵当権の抹消登記をする義務を履行しないまま、清算結了したということになる。

そうであれば、農業会の清算人を見つけ出し、本件抵当権の抹消登記に協力してもらう必要がある。しかし、農業会の登記簿謄本の清算人は時期的にみて全員死亡している。

そこで、誰が本件抵当権の抹消登記手続きにおいて、農業会を代表するのかが問題となる。

なぜなら、本件抵当権が設定されている不動産の所有者は、この農業会の代理人に対して消滅時効援用の意思表示をしたうえで、その代理人に本件抵当権の抹消登記手続きに協力しもらう必要があるからだ。

清算人の相続人

清算人の相続人は農業会の代理人にならない。

なぜなら、清算人の地位は、清算人と農業会の委任契約に基づくものであるところ、清算人の死亡により、委任契約が終了しているからである。

登記義務者の所在が知れない場合の特則

不動産登記法70条の特則は使えない。

なぜなら、本件抵当権につき、農業会の登記簿謄本により、抵当権者の所在は判明しているからである。

不動産登記法第70条の2の規定による抹消

※令和5年4月1日改正により、不動産登記法第70条の2の規定による抹消を検討する。

不動産登記法第70条の2の規定による抹消不動産登記法第70条の2の規定による抹消

特別代理人

民事訴訟法35条の特別代理人を選任する方法が考えられる。

但し、特別代理人を選任するには下記の要件を満たさなければならない。

  • 本件抵当権の抹消登記請求訴訟をすること。
    かつ
  • 遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明すること。

民事訴訟法の特別代理人民事訴訟法の特別代理人

民事訴訟法第35条

1 法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。

スポット清算人

本件抵当権の抹消登記手続きをするためのスポット清算人を選任する方法がある。

スポット清算人の活用スポット清算人の活用

以下、スポット清算人による本件抵当権の抹消登記手続きの方法を述べる。

スポット清算人

手続きの流れ

手順1
抵当権者の把握
商業登記簿謄本を取得する。
手順2
清算人の把握
清算人を調査する。
手順3
清算人選任申立て
裁判所で申立する。
手順4
時効援用
抵当不動産所有者が、清算人に対し時効援用の意思表示をする。
手順5
抵当権抹消登記
抵当不動産所有者と清算人が登記を申請する。
手順6
清算人選任取消しの申立て
裁判所で清算人の選任取消を申立てる。

清算人の不存在証明

清算人の不在を証明する書類を収集する。具体的には下記の書類である。

  • 死亡の記載のある戸籍謄本(抄本)
  • 清算人の謄本上の住所・氏名での不在籍証明
  • 清算人の謄本上の住所・氏名での不在住証明

書類の内容については事案によって異なるが、清算人の死亡の記載のある戸籍謄本(抄本)が準備できればこれで足りるだろう。

なお、清算人の不在は、裁判所にスポット清算人の選任申立てするにあたり、立証すべきことであり、どの程度の立証が要求されるかは裁判官による。

ところで、前述のように清算人の地位は、清算人と農業会との委任契約に基づくものであるところ、委任者たる農業会が清算結了すれば、委任契約は終了する(民法653条1項1号)。

そのため、本件において農業会の閉鎖登記簿謄本に清算人として記載されている者は清算人の地位にない。

もっとも、仮に清算人が存命であれば清算人が農業会を代表するから、上記の証明が必要であろう。

被担保債権の消滅時効を援用

抵当不動産の所有者が、本件抵当権の被担保債権の消滅時効を援用すれば、付従性により本件抵当権は消滅する。この場合の時効完成に要する期間は10年である。

抵当権の消滅時効を援用

これに対し、抵当不動産の第三取得者などが抵当権自体のの消滅時効を援用すれば、時効完成に要する期間は20年である。

ところで、抵当権自体の消滅時効を援用する場合に障害となるのが、民法396条である。同条により、債務者及び抵当権設定者及びその承継人は抵当権自体の消滅時効を援用できない。

そのため、抵当権自体の消滅時効を援用できる案件は多くないと考えられる。

また、本件では本件抵当権自体の消滅時効援用すれば、時効期間の20年を経過するまでの間に、無限責任〇〇信用購買販売利用組合から△△農業会へ包括承継が発生すると判明した。

そうなれば、本件抵当権の抹消登記の前提として抵当権移転登記をする必要がでてくる。

このような観点から消滅時効完成までの期間が短い、被担保債権の消滅時効を援用する方が簡易な場合がある。

清算人選任申立

申立人は抵当不動産所有者であることが多い。

申立ての理由の記載例は次のとおりである。

  1. 申立人は本件不動産の所有者である。
  2. 本件不動産に無限責任〇〇信用購買販売利用組合(以下、組合)の抵当権がある。
  3. 年月日組合は解散し、△△農業会(以下、農業会)が権利義務を承継した。
  4. 年月日農業会は清算結了した。
  5. 清算人が不在である。
  6. 申立人は農業会に対し、消滅時効の援用を考えている。
  7. そこで、本件申し立てをする。

添付書類は次のとおりである。

不動産の登記事項証明書

  • 抵当権者の閉鎖登記簿謄本
  • 清算人の不在を証する書面
  • 清算人候補者の同意書

抵当権抹消登記

登記の目的 抵当権抹消
原   因  年月日債権の時効消滅
登記権利者  抵当不動産所有者
登記義務者  清算人
その他の事項 清算人の住所に事前通知を希望する。