根抵当権の債務者相続による元本確定

元本確定後の根抵当権

元本が確定した根抵当権は抵当権と同様の性質を有する。すなわち、付従性・随伴性を有する。

そのため、元本が確定しうる状況になった場合に、根抵当権者と根抵当権設定者の取引が継続する予定であれば元本確定を阻止する必要性が高い。

「元本が確定しうる状況」とは実務的には根抵当権の債務者に相続が発生した場合である。

債務者に相続が発生した場合に相続開始後6か月以内に指定債務者の合意の登記をしなければ元本は確定する。そして、この指定債務者の合意は登記が効力要件である。

民法

(根抵当権者又は債務者の相続)
第三百九十八条の八 元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
2 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
3 第三百九十八条の四第二項の規定は、前二項の合意をする場合について準用する。
4 第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。

元本確定後の対応

根抵当権の債務者の相続に伴い根抵当権の元本が確定した場合の当事者が採り得る登記は次の通りである。

  1. 被担保債権を全部弁済して根抵当権抹消登記をする。
  2. 根抵当権の債務者相続による根抵当権変更登記をする。
  3. 新たな根抵当権を設定して、元本が確定した根抵当権の抹消登記をする。

以下これらの3つのパターンを詳しく説明する。

被担保債権の弁済

元本確定後の根抵当権の被担保債権を弁済すれば付従性により根抵当権は消える。よって、この場合には根抵当権抹消登記を申請する。このパターンは被担保債権全額を弁済することが前提である。

登記申請書は次の通りである。

1件目
登記の目的 根抵当権変更
原   因 年月日相続
変更後の事項 債務者(被相続人A)
B
C
権 利 者 根抵当権者
義 務 者 根抵当権設定者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

2件目
登記の目的 根抵当権抹消
原   因 年月日弁済
権 利 者 根抵当権設定者
義 務 者 根抵当権者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

なお、1件目の登記が入ることにより、元本確定の事実は明らかであるから元本確定の登記は不要である。

しかし、この方法では登記申請が2件になり、根抵当権設定者の費用負担が大きくなる。そこで、「解除」を登記原因とする根抵当権抹消登記を申請し、1件で済ますべきであろう。

1件目
登記の目的 根抵当権抹消
原   因 年月日解除
権 利 者 根抵当権設定者
義 務 者 根抵当権者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

債務者死亡による根抵当権変更登記

根抵当権の債務者相続による根抵当権変更登記をし、その上で免責的債務引受による根抵当権変更登記をする。

この登記は抵当権の債務者相続による抵当権変更登記と同じである。

もっとも、根抵当権の債務者相続による根抵当権変更登記では、抵当権の債務者相続による抵当権変更登記と異なり、相続債務について遺産分割があり特定の相続人が債務を承継しても共同相続人全員を債務者とする根抵当権変更登記をしなければならない。

1件目
登記の目的 根抵当権変更
原   因 年月日相続
変更後の事項 債務者(被相続人A)
B
C
権 利 者 根抵当権者
義 務 者 根抵当権設定者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

登記原因証明情報は法定相続情報一覧図の番号を記入すると、添付不要となる。

2件目
登記の目的 根抵当権変更
原   因 年月日Cの債務引受
変更後の事項 債務者 B
権 利 者 根抵当権者
義 務 者 根抵当権設定者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

なお、1件目の登記が入ることにより、元本確定の事実は明らかであるから元本確定の登記は不要である。

また、債権の範囲の変更登記はできない(民法398条の4)。

この登記は実態に即した登記であるが、いささか問題が多い。すなわち、根抵当権の債務者相続に伴い元本が確定した場合、根抵当権で担保される債権は相続開始時に存在する債権に限られる。

つまり、今後根抵当権者と根抵当権設定者で継続的取引が生じた場合には結局新たな根抵当権設定が必要となる。

登記原因証明情報

  1. 下記不動産に下記順位番号で登記された根抵当権の債務者につき令和 年 月 日に相続が発生し、債務者をB及びCに変更する登記がなされている。
  2. 本件根抵当権の元本は確定している。
  3. 令和 年 月 日、Bは本件根抵当権の被担保債務であるCの相続債務を免責的に引き受け、Cは債務を免れた。
  4. 【根抵当権者】及び【根抵当権設定者】はこれに伴う登記を申請することに合意した。
    変更後の事項 債務者 B

新たな根抵当権の設定

このように元本確定した根抵当権にはもはや根抵当権としての価値はなく、継続的取引に適さない。そこで、新たな根抵当権を設定する方法がある。

この場合の難点は登録免許税の負担である。そのため、新たに設定する根抵当権の極度額が高額であればあるほど、今後の継続的な取引の有無や頻度の吟味の必要性が増す。

1件目
登記の目的 (共同)根抵当権設定
原   因 年月日設定
極 度 額 金 円
債権の範囲 〇〇取引 年月日相続(被相続人A)によるBの相続債務にかかる債権 年月日債務引受(旧債務者C)にかかる債権
債 務 者 B
権 利 者 根抵当権者
義 務 者 根抵当権設定者
登録免許税 極度額の0.4%(原則)

2件目
登記の目的 根抵当権抹消
原   因 年月日解除
権 利 者 根抵当権設定者
義 務 者 根抵当権者
登録免許税 不動産の個数×1,000円

なお、この方法では1件目の債権の範囲の特定が難しい。

すなわち、特定債権は不特定債権と一緒であれば根抵当権で担保できるところ、債権の範囲で特定債権を表記しなければならない。そして、特定債権の表記方法は不特定債権のそれと異なり定型文言ではない。