司法書士事務所の独立開業の手引き

この手の記事を書く場合、当たり障りのないことやきれいごとを書きがちである。しかし、これから独立しようとする人・独立するか悩んでいるの人のためにあえて踏み込んだ内容を書いた。

補助者経験

司法書士として独立する前に補助者経験がいるかという問題がある。これに関しては補助者経験なく司法書士会主催の配属研修だけで独立している人は多くいる。

特に地方においては補助者の求人がないことも相まって補助者経験なしで独立する人は珍しくない。

無論補助者経験はあるに越したことはない。しかし、債務整理のみを扱う司法書士事務所に補助者として勤務したとしても登記業務に関しては未経験となる。

逆に登記業務の補助者経験しかなければ開業後に自分で債務整理を学ばなければならない。

結局個別的な話になるのでどうともいえないが、あえていうならば最低1年間の補助者経験は必要であろう。

また、補助者としての勤務経験期間もさることながら、勤務先の数も重要である。

すなわち、一つの事務所に5年間在籍するよりも、二つの事務所に2年間ずつ在籍する方が補助者経験としては有意義である。なぜなら、自分の事務所の常識は他人の事務所の非常識といえるほど事務所ごとに方針ややり方が異なるからである。

例えば事務所によって書面申請しかしない事務所がある。筆者の感覚としてはありえないが、その感覚は特例方式しかしない事務所で勤務しなければ養えないだろう。

同様に業務支援ソフトを使用したことがなければ開業後に業務支援ソフトを導入する気にならないだろう。

司法書士事務所名

開業時に事務所名を検討するかもしれないが、一人で司法書士事務所を開業する場合は事務所名を付けない方がよい。なお、事務所名を付けない場合、事務所名は自動的に司法書士〇〇事務所(〇〇は氏名)となる。

事務所名とは屋号を意味し、自分の店を構えた場合には屋号をつけたいという気持ちが生じるのは自然である。

しかし、司法書士一人の事務所では依頼者は「司法書士事務所」ではなく、司法書士「個人」に依頼をする。そのため、事務所名があると単純にややこしいのである。

その他にも事務所名を付けることによる問題はある。

事務所名を付ける短所

事務所名がある場合、職務上請求書には司法書士の個人名と事務所名を併記しなければならない。そのため、ゴム印は事務所名入りのものを作成することになる。

また、司法書士報酬等の請求書に事務所名を載せるかという問題が生じる。司法書士報酬等の請求書に事務所名を記載していなくても問題はない。しかし、一般に屋号を載せない報酬等の請求書は奇妙である。

さらに、報酬等の振込先の銀行口座に事務所名を付けるかという問題も生じる。なお、屋号付きの銀行口座には引き落としできるクレジットカードが限られるなどの制約がある。

事務所名を付ける場合

そうはいっても事務所名を付けている司法書士事務所は多く存在する。これは大規模な司法書士法人や共同事務所は、司法書士複数人体制で依頼者に対応するところ、事務所名を付ける方が都合がよいからだ。

例えば「司法書士法人山田太郎事務所」と名乗った場合に、司法書士山田太郎ではなく、司法書士田中実が依頼者に対応すると、依頼者から「司法書士山田太郎が相談に乗ってくれるのではないか」という意見が出る可能性がある。

これに対し例えば「司法書士法人ひまわり」という看板でやればこのような意見は基本でない。

また、親子や夫婦で司法書士事務所を運営している場合は氏だけの事務所名を付けることが多い。

司法書士事務所の場所

場所決め

事務所の場所決めは最初にする。なぜなら、事務所所在地が決まらなければ、司法書士の登録申請ができないからだ。

登録を急ぐのであれば、仮の事務所所在地で登録申請をする。その際には司法書士会をまたいで事務所所在地を変更しないようにる。なぜなら、司法書士会をまたいで事務所所在地を変更すると既存の司法書士会を脱退し、新たな管轄司法書士会で再度入会手続きをすることになるからだ。

間取り

司法書士事務所の広さは30㎡程度あれば十分である。事務所に置くのは最低限次のものである。

  • 事務机・椅子
  • PC
  • 複合機
  • 応接机・椅子

最初から広い事務所にしても場所を持て余すだけである。また、多くの書籍を置いている司法書士事務所があるが、実際ほとんど使っていない。

また、開業したての頃はクライアントに来訪してもらうのではなく、自分が往訪するくらいの気持ちでよい。

司法書士事務所立地

事務所は目立つ場所にあるに越したことはない。地方では駐車場のスペースや車の止めやすさも重要である。

しかし、これらにこだわれば当然家賃も高くなる。家賃は毎月の固定費であり、経費の大部分を占める。

美容院やカフェなどは内外装に投資して集客するが、司法書士事務所の内外装はそこまで重要ではない。

司法書士独立開業の準備

流れ

1
事務所決め
事務所を置くテナントを借りる。テナントの契約は、申込みから入居まで1か月程度かかかる。

2
登録申請
司法書士会に行って登録関係の書類をもらう。同時並行で戸籍・住民票を取得、職印の注文、写真撮影(会員証用)をする。

3
七つ道具手配
七つ道具を準備する。司法書士の登録申請から会員証交付までは時間がかかる(期間は司法書士連合会の登録審査会の日程次第)。登録申請と同時並行で準備をするとよい。 司法書士事務所の七つ道具司法書士事務所の七つ道具

4
登録完了
会員証交付式に出席し会員証をもらえたら、いよいよ開業である。ここですぐに電子証明書を請求する。また、登記情報と登記ネットにも登録する。

5
業務開始
税務署に開業届と青色承認申告書を提出、司法書士の保険契約をする。

職印

登録の申請の際に職印が必要である。職印のサイズは18mmでよい。大きすぎると書類に押しにくい上、見栄えが悪い。

パソコン

CPUはIntelのCore i5以上が無難である。なお、i5でも昔のものは性能が落ちるので、最新のPCを購入する。

メモリ(RAM)やストレージに関しては、CPUで大体決まるので、そこまで気にしなくてよい。例えば、CPUがi7であれば、メモリは8GB、ストレージSSD500GBなどが自動的についてくる。

なお、法務省の申請用総合ソフトがMACに対応していないので、MACは不可。

また、AMD RyzenのCPUが申請用総合ソフトに対応しているかは不明である。

業務支援ソフトを利用する場合には業者と打ち合わせする。

業務支援ソフト

業務支援ソフトを導入する場合は開業準備段階で導入する。

最初は仕事が少ないからという理由で業務支援ソフトを導入しない人がいるが、業務支援ソフトを使用している立場からいうと、業務量にかかわらず業務支援ソフトを使用しないのはありえない。

司法書士の業務支援ソフト導入司法書士の業務支援ソフト導入

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開業資金

  • 司法書士登録費用
  • テナントの初期費用
  • 運転資金(登録免許税立替分等)
  • パソコン、コピー機の費用
  • 机・椅子・看板等の費用

司法書士が独立するには事務所、パソコン、複合機があればはじめられる。そこで、生活費を含めた事業計画を練る。

  1. 月々の生活費(食費、住居の家賃、趣味等)を計算
  2. 月々の事業経費(司法書士会費、事務所の家賃等)を計算※1
  3. 月々の売上の予測
  4. 開業後、何ヵ月目から経費を賄える売上がでるか
  5. 開業後、何ヵ月目から生活費+経費分を賄える売上がでるか

※1 借入をするならば返済予定額も考慮する。

売上の予測

司法書士開業の事業計画における売上の予測は難しい。良い意味でも悪い意味でも事業計画通りの売り上げにはならない。

そもそも司法書士事務所開業の事業計画においては売上予測はあまり意味のあるものではない。

ところで、一般に事業計画において売上を予測する主たる目的は売上の上限を把握するためだと考えられる。

例えば次のようなカフェを開店する。

  • 店内20席
  • 客単価平均1,000円
  • 回転数は1日5回転

このカフェが1日中満席でも売上の上限は100,000円(20席×1,000円×5回転)である。

つまり、カフェ集客がどれだけうまくいってもこれ以上の売上を出せない。このように事業計画書を作成することで売上の上限を把握でき、これに基づいて仕入や経費を計算する。