敷地権と敷地利用権

敷地利用権

定義

「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう(建物の区分所有等に関する法律2条6号)。

建物の敷地

「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び規約により建物の敷地とされた土地をいう(建物の区分所有等に関する法律2条5号)。

「規約により建物の敷地とされる土地」とは、いわゆる規約敷地と呼ばれるもので、建物の区分所有等に関する法律5条に規定される。規約敷地の説明は本記事では割愛する。

建物の区分所有等に関する法律

(定義)
第二条 この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2 この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
3 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
4 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
5 この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
6 この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。

(規約による建物の敷地)
第五条 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
2 建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となつたときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となつたときも、同様とする。

分離処分の禁止

建物の区分所有等に関する法律22条は、一定の場合に専有部分と敷地利用権を分離して処分することを禁止している。一定の場合とは次の場合である。

  • 敷地利用権が共有で、かつ専有部分とその敷地利用権を有している場合。
  • 建物の専有部分すべてと、敷地利用権を同一人が単独で有している場合。

分離処分が禁止される趣旨は、区分建物における権利関係の簡素化である。すなわち、専有部分又は敷地利用権いずれか一方のみを処分すれば、専有部分につき敷地利用権がなくなる可能性がある。このような権利関係の複雑化を防ぐため、分離処分を禁止する規定が置かれている。

ところで、区分建物でありながら分離処分が禁止されない場合とは、例えば親が所有する土地に、親及び子が各々所有する区分建物がある場合である。この場合、親は敷地利用権を共有していないので、分離処分は禁止されない。また、子は敷地利用権を有しないので、分離処分はそもそもできない。

建物の区分所有等に関する法律

(分離処分の禁止)
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2 略
3 前二項の規定は、建物の専有部分の全部を所有する者の敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利である場合に準用する。

敷地権

敷地権とは、登記事項である権利が敷地利用権となっており、かつ分離処分が禁止されたものをいう。なお、登記事項である権利か否かは不動産登記法3条で規定される。

(登記することができる権利等)
第三条 登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第二項及び第百五条第一号において同じ。)についてする。

一 所有権
二 地上権
三 永小作権
四 地役権
五 先取特権
六 質権
七 抵当権
八 賃借権
九 配偶者居住権
十 採石権(採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)に規定する採石権をいう。第五十条及び第八十二条において同じ。)

敷地権の趣旨は区分建物における登記簿の簡素化である。

また、敷地権は不動産登記法上の概念である。よって、敷地権となり得る権利は当然不動産登記法で登記できる権利に限られる。例えば、敷地利用権が入会権や使用貸借権であれば、これらの権利は敷地権にはなりえない。

不動産登記法

(建物の表示に関する登記の登記事項)
第四十四条 建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一~八 略

九 建物又は附属建物が区分建物である場合において、当該区分建物について区分所有法第二条第六項に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法第二十二条第一項本文(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの(以下「敷地権」という。)があるときは、その敷地権

2 略

敷地権と敷地利用権の考え方

規律される法律

区分建物に関する実務では、敷地権と敷地利用権の正確な理解が必要不可欠である。区分建物の「表題登記」や非区分建物の「建物区分登記」は土地家屋調査士の業務であるが、区分建物に関する遺言や訴訟は司法書士の業務である。

そこで、敷地権と敷地利用権を理解する上で念頭に置くべきことを説明する。それは、敷地権は「不動産登記法」で定義され、敷地利用権は「建物の区分所有等に関する法律」(俗にいう区分所有法)で定義される概念ということである。また、これらの概念に密接にかかわる分離処分の禁止は敷地利用権と同じく「建物の区分所有等に関する法律」で規定される。

敷地権及び敷地利用権に関する記事は数多くあるが、この前提知識を説明しているものは少ない。しかし、この前提知識を押さえておかなければ、敷地権と敷地利用権を正確に理解できない。

法律の趣旨

「建物の区分所有等に関する法律」で定義・規定される、「敷地利用権」及び「分離処分の禁止」の趣旨は、区分建物における権利関係の簡素化である。

これに対し、「不動産登記法」で定義される「敷地権」の趣旨は、不動産の登記記録の簡素化である。よって、敷地権とは登記記録を整理するためのツールに過ぎない。すなわち、敷地権の制度が直接的に区分建物における権利関係の簡素化を図っているのではない。

包含関係

敷地権及び敷地利用権の根拠となる法律の規定及び趣旨が具体的に何を意味するかと言えば、「分離処分が禁止される敷地利用権の全てが敷地権として登記されるわけではない。」ということである。これに対し、「敷地権として登記された権利」は必ず「分離処分が禁止された敷地利用権」である。言い換えれば、敷地権は、敷地利用権の部分集合であり、分離処分が禁止された敷地利用権の部分集合でもある(下図を参照)。

例えば、敷地利用権が使用貸借権であり、その分離処分が禁止されていても、使用貸借権は登記事項ではないので敷地権にはならない。また、敷地利用権が所有権の場合でも、その分離処分が禁止されていなければその所有権は敷地権にならない。