株式会社設立時の定款附則

前提

株式会社の設立に際しては公証人による定款認証が必要であるが、この認証を受ける定款をここでは便宜上「原始定款」と呼ぶ。

中小企業が節税対策のために個人事業主から会社組織に移行する場合、かかる株式会社は小規模な形態をとることが多い。例えば、非公開会社で、株主は個人事業主のみであり、その株主が代表取締役、代表取締役の配偶者が取締役のようなケースである。このような会社をここでは便宜上「小規模会社」と呼ぶ。

また、本記事は発起設立を前提とする。

小規模会社では上場や将来の株式の売却を念頭に置いていないので、原始定款の中身にはほとんど興味はなく、原始定款は標準的なものをそのまま使用することになる。そのため、どの専門家に依頼しても、専門家に依頼しなくても原始定款の内容はおおむね同じになる。

また、定款内容をよく理解しておらず、後に定款変更が必要となっても小規模会社では株主が少数であるから、迅速に定款変更ができる。よって、原始定款の細部にこだわりをもつ必要性が低い。

ところで、原始定款の最後の章には附則が設けられることが一般的である。この附則には株式会社設立登記に必要な事項を定めることが多い。そして、附則の記載事項及び記載方法は作成者によって個性が出る。具体的には下記の記載をするか否かである。

  • 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数及び設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
  • 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
  • 設立時取締役等
  • 本店所在地

定款認証

株式会社設立登記の前に、認証された原始定款を変更する場合、一定の例外(会社法30条2項)を除いて、原始定款の再認証を受ける必要がある。再認証手続きは煩雑であるからできるだけ避けたい。そこで、原始定款の再認証のリスクを回避するために、「原始定款で定める必要がないもの」は定めないという方法をとるべきである。

しかし、実務上多くの場合に原始定款の附則に、「原始定款で定める必要がないもの」も定めている。これは専ら会社設立登記手続きの便宜である。すなわち、発起人の決定事項は、設立登記の際に添付書類として「発起人の決定書」を作成する必要があるが、原始定款に定めてしまえばかかる書面の提出が不要になる。

以上のような利点を重視するのであれば発起人の決定事項を原始定款附則にすべて入れ込む方法をとるべきである。

このように、原始定款の附則を規定する場合、原始定款の再認証のリスクと会社設立登記の便宜をいかに調和させるかが問題となる。

そこで、発起人の決定事項を原始定款の附則にどの程度まで定めるべきか、以下個別に検討する。

設立時発行株式

設立時発行株式に関する事項は定款で定めない限り発起人全員の同意で定める(会社法32条1項)。設立時発行株式に関する事項とは下記である。

  • 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
  • 設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額

小規模会社の場合、発起人は少人数であり、資本金も少額であるから定款認証後これらが変更されることはあまりない。それよりも注意すべきことは発起人が払い込みをする日付である。

ところで、会社設立手続きの流れは次のとおりである。

手順1
発起人が原始定款を作成する。
手順2
発起人が原始定款の認証を受ける。
手順3
原始定款に基づき、発起人が会社の設立に必要な事項を決定する。
手順4
発起人が資本金の払い込みをする。
手順5
発起人が設立時取締役等を選任する。
手順6
設立時代表取締役が設立登記を申請する。

ここで、発起人の払い込みは、理論上「設立時発行株式に関する事項」の決定に基づいてなされる。そのため、仮に発起人の払込日が、「設立時発行株式に関する事項」の決定日よりも前であると、登記申請は却下される。

※先例(令和4年6月13日付法務省民商第286号)により払込日が定款作成日又は「設立時発行株式に関する事項」の決定日より前でも登記申請は受理されるようになった。

このような事態をさけるために「設立時発行株式に関する事項」を原始定款で定めないケースが多い。この場合は「設立時発行株式に関する事項」を発起人の決定書で定めることになる。そうすると、発起人の払込日はかかる発起人の決定書以降の日付でなされる必要がある。よって、この場合は払込日と原始定款の作成日との整合性をとる必要がない。

ここで、実務上の話をすると、定款認証日は公証人が絡むので事後的に日付の操作はできない。また、払込日は金融機関が絡むので事後的に操作はできない。これに対し、発起人の決定書の日付は事後的に操作できる。すなわち、発起人に予め任意の日付で資本金の払い込みをしてもらい、その上で払込日以前の日付で発起人の決定書を作成するのである。このような理由から、「設立時発行株式に関する事項」を原始定款で定めないで、発起人の決定書で定めるのである。もっとも、払い込む金額は、定款の絶対的記載事項たる「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」と整合する必要はある。

また、登記実務においては、払込に関する時間の流れが次のようになっていても問題ないとされている。

「設立時発行株式に関する事項」に関する発起人の決定日→払込日→定款作成日

しかし、このような時間の流れが会社法上適法といえるかは議論の余地があろう。

また、原始定款で「設立時発行株式に関する事項」を定めた場合、払込日は定款日以降である必要があるが、定款認証日以降である必要はないというのが登記実務である。すなわち、この場合の時間の流れ次のようになる。

定款作成日→払込日→定款認証日

もっとも、上記の時間の流れをたどる場合、発起人が早期に払い込みをして発起人の払込日と定款認証日との間が長期間となっていれば、必然的に定款作成日と定款認証日との間も長期間となる。そうなれば公証人が定款作成日が不自然であるとの理由で定款認証をしてくれない可能性がある。

資本金の額

下記の事項は定款で定めない限り発起人全員の同意で定める(会社法32条1項)。

  • 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項

資本金を原始定款に定めるか否かは「設立時発行株式」と同様に考えるべきであろう。

設立時取締役

設立時取締役の選任は発起人の議決の過半数で決定される(会社法40条1項)。これに対し、原始定款で定める場合は発起人全員の同意が必要である。よって、設立時取締役の選任につき、原始定款ではなく発起人の決定で選任する場合は選任の可決要件が緩和される。かかる観点から、原始定款ではなく、発起人の決定書で選任する利点はある。

しかし、小規模会社で原始定款作成時に設立時取締役の選任につき発起人で意見が相違することは想定しづらい。

そこで、設立時取締役を原始定款と発起人の決定書のいずれで定めるかは、代表取締役の選定方法にならうということを提案をしたい。

設立時代表取締役

設立時代表取締役の選定について視点を移すと、取締役会非設置会社における設立時代表取締役の選定方法は次のとおりである。

  1. 原始定款に定める。
  2. 発起人の全員の同意。
  3. 設立時取締役が設立時代表取締役を互選する原始定款の規定に基づく設立時取締役の互選。

上記3は会社成立後の代表取締役選定の規定とは別個のものと解されている。すなわち、定款に「代表取締役は取締役の互選により定める」という規定があっても、この規定に基づき設立時取締役の互選により設立時代表取締役を選定することはできない。そうであれば上記3の設立時代表取締役の選定にかかる定款規定は会社設立時のみ存在意義があるので、定款に記載する実益が乏しい。さらに、上記の代表取締役の選定方法の規定と併存すれば、定款を複雑化するといえる。

よって、上記3は原則採用すべきでないだろう。

そこで、上記1か2になる。小規模会社で設立時代表取締役を定款認証後、会社設立登記までの間に変更することが考えづらければ、設立時代表取締役を原始定款に定めてもよいだろう。

そして、設立時代表取締役を原始定款で定めるならば、設立時取締役も併せて原始定款で定めるべきではないか。なぜなら、設立時取締役を発起人の決定書で選任しておきながら、設立時代表取締役を原始定款で選定することは定款の体裁上不自然だからである。

本店所在場所

定款には本店所在場所まで定める必要はないので、多くの会社では定款では本店所在地まで定めることに止めている。そこで、原始定款の附則で会社設立時の本店所在地を定めることも可能である。

しかし、かかる記載は定款をいたづらに混乱させるものであるから、とるべきではないだろう。

また、小規模会社の場合、株主は少数であるから定款変更の負担は大きくない。そうであれば定款に本店所在地を定めるに止めるではなく、本店所在地まで定めても問題は少ない。

改正

ここまで定款附則の記載事項について述べてきたが、商業登記規則改正及び先例(法務省民商第10号令和3年1月29日)変更により添付書類の一部に押印が不要とされたことで、前述の議論をする実益がなくなった。

すなわち、改正前・先例変更前は発起人の決定書には発起人の押印が必要であったので、発起人が複数人いればその全員に押印をもらうという手間があった。

これに対し、発起人の決定書を使用せず、原始定款で発起人の決定事項を定めれば発起人の押印は定款認証のための委任状だけで済む。

かかる理由から、原始定款の附則に発起人の決定事項を定める実益があった。

しかし、今後は前述の定款再認証のリスクを避けるため、今後は発起人の同意事項を定款附則に定めるのではなく、発起人の決定書に定めることが多くなるだろう。