所有者不明土地管理命令と所有者不明建物管理命令

問題の所在

所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令(以下、併せて「本命令」という。)は不動産所有者が不明の場合の公共事業の用地取得や不動産の管理・処分をスムーズに進めるための制度です。この用地取得や管理・処分をここでは「用地取得等」と呼びます。

本命令は民法264条の2以下で規定されています。

ところで、不動産所有者が不明の場合に用地取得等をするには本命令以外に次の制度があります。

不在者財産管理人

不在者財産管理人とは行方不明者の代わりに財産を管理する者で、裁判所により選任されます。すなわち、不動産所有者が行方不明の場合には不在者財産管理人を選任して用地取得等をすることができます。但し、不在者財産管理人は行方不明者という「人」単位で選任されるため、不在者財産管理人の管理・処分の対象は行方不明者の不動産だけでなく、その他の財産にも及びます。そのため、行方不明者の財産が多い場合には不在者財産管理人の選任申立て時の予納金が高額になることがあり、利用しづらい欠点があります。

相続財産清算人

相続財産清算人とは相続財産法人を清算する者で、裁判所により選任されます。すなわち、不動産の相続人がいない場合には相続財産清算人を選任して、用地取得等をすることができます。但し、相続財産清算人は相続財産法人を単位として選任されるため、相続財産清算人の管理・処分の対象は相続財産法人中の不動産だけでなく、その他の財産にも及びます。そのため、相続財産法人を構成する財産が多い場合には相続財産清算人の選任申立て時の予納金が高額になることあり、利用しづらい欠点があります。

清算人

清算人とは解散している株式会社の財産を処分する者で、裁判所により選任されます。すなわち、不動産所有者が解散した株式会社である場合には清算人を選任して用地買収等をすることができます。また、清算人の選任においては特定の目的のみのために清算人を選任する運用、いわゆるスポット清算人の運用も実務上認められています。

本命令の特徴

このように用地取得等を行うための制度はいくつかありますが、本命令は「特定の不動産単位」で管理人を選任する制度である点で、これらの制度とは異なります。

また、本命令は「特定の不動産単位」で管理人が選任されるため、例えば不動産の共有者全員が不明の場合には共有者全員のために一人の管理人を選任できる(民法264条の5第2項)という利点があります。

以上が本命令の特徴です。次に所有者不明土地管理命令について具体的に説明します。

所有者不明土地管理命令の概要

発令要件

所有者不明土地管理命令は土地所有者・共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に利害関係人の請求より発せられます。この利害関係人とは例えば土地の共有者です。

なお、この「知ることができず、又はその所在を知ることができない」者をここでは「不明者」と呼びます。

所有者不明土地管理人

裁判所が所有者不明土地管理命令をする場合には、併せて所有者不明土地管理人が選任されます。

民法

 

(所有者不明土地管理命令)
第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。

 

所有者不明土地管理命令の効果

次に所有者不明土地管理命令の効果を説明します。

及ぶ範囲

所有者不明土地管理命令の効力は対象の土地又はその共有持分だけでなく、その土地にある不明者の動産にも及びます。

所有者不明土地管理人の権限

所有者不明土地管理人は所有者不明土地管理命令の対象の土地、その土地にある不明者の動産及び土地の管理・処分などによって発生した対価を管理・処分する権利を有します。なお、所有者不明土地管理人が管理・処分する権利を有するこれらの財産を「所有者不明土地等」といいます。

また、所有者不明土地管理人が次の行為を超える行為をするには裁判所の許可が必要です。

  1. 保存行為
  2. 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

訴え

所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とします。

所有者不明土地管理人の義務

所有者不明土地管理人は不明者のために善良な管理者の注意をもってその権限を行使しなければなりません。

また、数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合には所有者不明土地管理人は、不明者全員のために誠実かつ公平にその権限を行使しなければなりません。

民法

(所有者不明土地管理人の権限)
第二百六十四条の三 前条第四項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
(所有者不明土地等に関する訴えの取扱い)
第二百六十四条の四 所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
(所有者不明土地管理人の義務)
第二百六十四条の五 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。

 

所有者不明建物管理命令の概要

所有者不明建物管理命令は民法264条の8に規定されており、中身は所有者不明土地管理命令とほぼ同じです。

但し、所有者不明建物管理命令の効力は、所有者不明建物管理命令の対象とされた建物、その建物にある不明者の動産だけでなく、不明者が有する建物の敷地に関する権利(所有権を除く。)にも及びます。

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