相続分譲渡と相続登記

相続登記と中間省略登記

不動産登記法には物権変動の過程を忠実に反映するという理念がある。例えば、A→B→Cへと不動産の所有権が移転した場合、登記もこのように反映すべきであり、A→Cへと直接名義変更をすることは原則認められない。A→Cへと名義変更して、A→B及びB→Cへの所有権移転登記の過程を省略する登記を中間省略登記という。

これは相続登記においても同様で、A死亡後、Aの相続人Bが死亡し、CがBを相続した場合、A→B→Cへの相続登記をしなければならない。もっとも、相続登記には中間省略登記を認める例外がある。それは中間の相続、この例でいえはAからBへの相続が単独相続の場合には中間省略登記が認められている。そして、この「単独相続」には「元から相続人が一人の場合」だけでなく、相続放棄や遺産分割によって「結果的に相続人が一人になった場合」も含まれる。

登記の目的 所有権移転
原因 年月日B相続、年月日相続
相続人 (被相続人A)
C

※「年月日B相続」の日付はAの死亡日、「年月日相続」の日付はBの死亡日である。

遺産分割と相続分譲渡

ところで、遺産分割をした場合の所有権移転登記における遺産分割協議書又は遺産分割協議証明書には相続人が個人実印を押印し、その印鑑登録証明書を添付する。

また、相続分譲渡をした場合の所有権移転登記には相続分譲渡証明書を添付し、同じく印鑑登録証明書を添付する。

よって、遺産分割と相続分譲渡では相続人が署名押印する書類は体裁が異なるに過ぎず、印鑑登録証明書を準備する手間も同じである。

このような理由から、数次相続が発生している場合は相続人の同意がある限り相続人全員の遺産分割協議をした旨の証明書を添付して、特定の相続人に所有権移転登記をし、相続分譲渡証明書は使用しない。

相続分譲渡の問題が顕在化するのは遺産分割調停が発生する場合である。すなわち、遺産分割調停は相続人の一人が他の相続人全員を相手として申し立てるが、遺産の処分に興味がなく調停手続きに関与したくない相続人がいることがある。この場合、調停申立ての「相手方」にならない方法として、遺産分割調停申立て前に、相続人が申立人に相続分譲渡をする方法がある。また、調停申立ての相手方となっても、相続分を譲渡又は放棄すれば調停手続きから離脱できる。このように遺産分割調停においては相続分譲渡がなされることは多い。

しかし、相続分譲渡には後述のとおり中間省略登記が利用できない場合がある。その上、相続分譲渡をした相続人を含む相続人への所有権移転登記も必要な場合がある。なお、一旦登記の原因を「相続」とする所有権移転登記がなされると、相続分を譲渡した者から相続分を譲渡された者へ登記は、登記の原因を「相続分の贈与(又は相続分の売買)」とする持分移転登記である。この登記は譲渡した者を登記義務者、譲渡された者を登記権利者とする共同申請でなされる。

このように、遺産分割調停の申立てにおいてはその後の所有権移転登記も視野に入れて置かなければならない。

同順位相続人間で相続分譲渡

被相続人の死亡後、共同相続人間で相続分の譲渡がなされた場合、本来であれば登記の原因を相続とする所有権移転登記をしたのち、登記の原因を相続分の贈与(又は相続分の売買)とする持分全部移転登記を申請するべきである。

例えば、

  1. 被相続人がX、相続人が配偶者Aと子Bで、
  2. AがBに相続分を譲渡した

場合、本来であればそれぞれの番号に応じた次の登記が必要である。

  1. X→ABへの所有権移転登記(移転後、A持分2分の1、B持分2分の1)
  2. A→BへのA持分全部移転登記(移転後、B持分2分の2)

1件目

登記の目的 所有権移転
原因 年月日相続
相続人 (被相続人X)
移転した持分2分の1 A
    持分2分の1 B

2件目

登記の目的 A持分全部移転
原因 年月日相続分の贈与(相続分の売買)
権利者 移転した持分2分の1 B
義務者 A

しかし、登記先例(昭和59年10月15日民三5195、昭和59年10月15日民三5196)は相続分を譲渡した者を除く相続人への所有権移転登記を認めている。

すなわち、上記の例では次の登記ができる。

  1. X→Bへの所有権移転登記(移転後、B持分2分の2)

1件目

登記の目的 所有権移転
原因 年月日相続
相続人 (被相続人X)
B

数次相続発生後の相続分譲渡

相続発生後、その相続人に相続が発生した場合、すなわち数次相続が発生した場合は原則通り登記の原因を相続とする所有権移転登記をしたのち、登記の原因を相続分の贈与(又は相続分の売買)とする持分全部移転登記を申請しなければならない(平成4年3月18日民三1404)。

例えば、

  1. 被相続人がX、相続人が配偶者Aと子Bで、
  2. さらにBが死亡し、Bの相続人が子Cで、
  3. AがCに相続分を譲渡した

場合、それぞれの番号に応じた次の登記が必要である。

  1. X→ABへの所有権移転登記(移転後、A持分2分の1、B持分2分の1)
  2. B→CへのB持分全部移転登記(移転後、A持分2分の1、C持分2分の1)
  3. A→CへのA持分全部移転登記(移転後、C持分2分の2)

1件目

登記の目的 所有権移転
原因 年月日相続(※Xの死亡日)
相続人 (被相続人X)
移転した持分2分の1 A
    持分2分の1 B

2件目

登記の目的 B持分全部移転
原因 年月日相続(※Bの死亡日)
相続人 (被相続人B)
移転した持分2分の1 C

3件目

登記の目的 A持分全部移転
原因 年月日相続分の贈与(相続分の売買)
権利者 移転した持分2分の1 C
義務者 A

相続分譲渡と遺産分割の合せ技

このように数次相続が発生した場合の相続分の譲渡は所有権移転登記申請が煩雑になる。これは相続分の譲渡には遺産分割と異なり、遡及効がないからだと考えられる。そこで、相続分譲渡後に遺産分割をすれば相続分の譲渡による煩雑な登記を回避できうる。

例えば、

  1. 被相続人がX、相続人が配偶者Aと子Bで、
  2. さらにBが死亡し、Bの相続人が子Cと子Dで、
  3. AがCに相続分を譲渡した
  4. CとDで、Cが単独取得する旨の遺産分割をした

場合、先ほどの登記先例(平成4年3月18日民三1404)の考えた方を貫けば次の登記が必要である。

  1. X→ABへの所有権移転登記(移転後、A持分2分の1、B持分2分の1)
  2. B→CへのB持分全部移転登記(移転後、A持分2分の1、C持分2分の1)
  3. A→CへのA持分全部移転登記(移転後、C持分2分の2)

1件目

登記の目的 所有権移転
原因 年月日相続(※Xの死亡日)
相続人 (被相続人X)
移転した持分2分の1 A
    持分2分の1 B

2件目

登記の目的 B持分全部移転
原因 年月日相続(※Bの死亡日)
相続人 (被相続人B)
移転した持分2分の1 C

なお、CD間の遺産分割により、B持分はCが取得しているので、2件目の申請はCのみである。

3件目

登記の目的 A持分全部移転
原因 年月日相続分の贈与(相続分の売買)
権利者 移転した持分2分の1 C
義務者 A

しかし、本件ではCD間で遺産分割をしている。よって、その遺産分割の結果、中間の相続であるX→AB相続がBの単独相続となる。よって、次の中間省略登記ができる(平成30年3月16日民ニ137)。

  1. X→Cへの所有権移転登記(移転後、C持分2分の2)

1件目

登記の目的 所有権移転
原因 年月日B相続、年月日相続
相続人 (被相続人X)
C

なお、原因の「年月日B相続」の日付はXの死亡日、「年月日相続」の日付はBの死亡日である。