相続土地国庫帰属制度

相続土地国庫帰属制度の概要

令和5年4月27日から相続土地国庫帰属制度(以下、「本制度」という。)が始まります。本制度は相続によって取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。そして、本制度は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(以下、「法」という。)という法律で規定されます。

所有権の放棄

本制度の説明の前に土地の所有権の放棄について説明します。

そもそも人が物を所有している状態は「特定人が特定物の所有権を有する。」と表現できます。そして、この特定人は「所有者」、この特定物は「所有物」と呼ばれます。

また、所有者は所有物を原則自由に使用・収益・処分できます(民法206条)。そして、所有者は所有物の処分の一環として、所有物に対する所有権を放棄できます(民法255条参照)。

例えば自動車の所有者はその自動車の所有権を放棄し、廃車手続きをすることができます。そして自動車と同様に、土地の所有者はその土地の所有権を放棄できます。しかし、土地の所有権の放棄は自動車の所有権の放棄と異なり、所有権放棄の手続きが用意されていません。

(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

国庫帰属

これは不動産の所有権放棄特有の問題があるからです。すなわち、不動産の所有者がその所有権を放棄した場合、その不動産は所有者のいない不動産となります。そして、所有者のいない不動産は国庫に帰属します(民法239条2項)。

よって、土地の所有者がその土地の所有権を放棄すれば、理論上はその土地は国庫に帰属します。しかし、不要な土地を国に引き取ってもらうことができるのは、本制度のほか、土地所有者に相続が発生し、その相続人全員が相続放棄をした場合の清算手続きだけです。

(無主物の帰属)
第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

相続土地

ところで、土地所有者に相続が発生し、その相続人全員が相続放棄をした場合の清算手続きでは、相続人は被相続人の土地だけでなく被相続人の財産すべてを放棄することになります。そのため、この手続きにより土地を国に引き取ってもらう事例は極めて少ないといえます。

しかし、相続という自己の意思に基づかない土地の取得により以後その土地の管理責任を永久に負うことは相続人にとって過度な負担となりえます。そこで、本制度が設けられました。なお、売買や贈与などの自己の意思に基づいて土地を取得した者に、その土地の管理責任を負わせることは過度な負担とはいえません。そのため、相続以外で土地を取得した者は原則本制度を利用できません。

相続土地国庫帰属制度の流れ

手順1
承認申請
本制度の利用希望者が承認申請をし、審査手数料を納付します。
手順2
書面審査
法務局担当官が書面審査をします。
手順3
実地調査
書面審査を通過すると、法務局担当官が土地の実地調査をします。
手順4
承認
実地調査を通過すると、法務大臣による承認がなされます。
手順5
負担金納付
承認がなされると、承認申請者が負担金を納付し、手続きが完了します。

以上が本制度の流れです。

相続土地国庫帰属制度の要件

相続等

本制度を利用できるのは原則相続によって土地を取得した者に限られます。但し、遺贈により土地を取得した相続人も本制度を利用できます。本制度では相続及び相続人に対する遺贈を「相続等」と呼びます。

なお、法人が合併や分割により土地を取得しても原則本制度を利用できません。

土地の所有者

また、本制度の申請ができるのは土地の所有者です。建物は本制度の対象ではありませんので、建物の敷地につき本制度を利用する場合には事前に建物を取り壊す必要があります。

そして、土地が共有の場合は土地の共有者全員が本制度の承認申請を行わなければなりません。但し、共有者の一人が相続等によって土地の共有持分を取得していれば、他の共有者は相続等以外で土地の共有持分を取得していても本制度の承認申請ができます。

申請できない土地

しかし、どのような土地でも本制度を利用できるわけではありません。本制度の承認申請は土地が次のいずれかに該当する場合はできません(法2条3項)。

  1. 建物の存する土地
  2. 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  3. 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
  4. 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

このいずれかに該当すると本制度は利用できません。

却下

そして、本制度の承認申請は次のいずれかの場合は却下されます。

  1. 申請権限を有しない者の申請
  2. 申請した土地が前述の「申請できない土地」である場合又は申請書、添付書類、手数料の納付に不備がある場合
  3. 正当な理由なく事実の調査に応じない場合

以上が承認申請が却下される場合です。

(承認申請の却下)
第四条 法務大臣は、次に掲げる場合には、承認申請を却下しなければならない。
一 承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき。
二 承認申請が第二条第三項又は前条の規定に違反するとき。
三 承認申請者が、正当な理由がないのに、第六条の規定による調査に応じないとき。
2 法務大臣は、前項の規定により承認申請を却下したときは、遅滞なく、法務省令で定めるところにより、その旨を承認申請者に通知しなければならない。

承認

本制度の承認申請が却下されず、次のいずれにも該当しない場合には承認申請は承認されます。なお、この承認は土地1筆ごとに行われます。

  1. 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
  2. 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
  3. 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  4. 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
  5. 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

これらのいずれかに該当すると不承認となります。

(承認)
第五条 法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
一 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
二 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
三 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
四 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
五 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
2 前項の承認は、土地の一筆ごとに行うものとする。

実地調査

また、法務大臣は、承認申請に係る審査のため必要があるときは、職員に事実の調査をさせることができます。これは実地調査と呼ばれます。

負担金

そして、本申請の承認がなされると負担金が定められます。負担金は承認申請者が負担します。なお、承認申請にかかる土地の所有権は、負担金の納付時に国庫に帰属します。

(負担金の納付)
第十条 承認申請者は、第五条第一項の承認があったときは、同項の承認に係る土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければならない。
2 法務大臣は、第五条第一項の承認をしたときは、前条の規定による承認の通知の際、法務省令で定めるところにより、併せて負担金の額を通知しなければならない。
3 承認申請者が前項に規定する負担金の額の通知を受けた日から三十日以内に、法務省令で定める手続に従い、負担金を納付しないときは、第五条第一項の承認は、その効力を失う。

(国庫帰属の時期)
第十一条 承認申請者が負担金を納付したときは、その納付の時において、第五条第一項の承認に係る土地の所有権は、国庫に帰属する。
2 法務大臣は、第五条第一項の承認に係る土地の所有権が前項の規定により国庫に帰属したときは、直ちに、その旨を財務大臣(当該土地が主に農用地又は森林として利用されていると認められるときは、農林水産大臣)に通知しなければならない。

相続登記

以上が本制度の説明です。ここで、相続登記未了の土地につき、本制度の承認申請が可能であるかが問題となります。これにつき現時点ではっきりした回答は出ていませんが、相続登記が未了の土地については本制度を利用できないと思われます。

もっとも、相続登記の要否が本制度の利用に大きな影響をもたらすものではありません。なぜなら、相続登記の要否に関わらず、本制度では土地の相続人全員の関与が必要だからです。すなわち、相続登記が必要な場合、相続人の全員の把握やその関与が必要となるところ、共有の土地で本制度の承認申請をする場合、共有者全員が承認申請をしなければなりません。よって、仮に相続登記が不要でも、本制度を利用するには相続人全員の関与が必須です。

表題登記

また、表題登記が未了の土地についても本制度を利用できないと考えられます。