自動車の相続手続き

自動車検査証の内容

自動車の相続手続きをするには自動車検査証の内容を理解する必要があります。自動車検査証は一般に車検証と呼ばれる書類で、主に2つの要素から構成されます。すなわち、自動車検査証は、自動車の大きさや重さなどの物理的現況を表記した要素と、自動車の所有者などの権利関係を表記した要素から構成されます。そして、自動車の相続手続きとは後者を書き換えることを意味します。そこで、ここでは後者の内容を説明します。後者は次の要素から構成されます。

  • 所有者欄
  • 使用者欄
  • 使用の本拠の位置欄

また、普通自動車の自動車検査証は運輸支局が、軽自動車の自動車検査証は軽自動車協会が発行します。自動車の相続手続きもこの管轄に基づいて行います。

自動車検査証の所有者欄

自動車検査証の所有者欄には「所有者の氏名又は名称」と「所有者の住所」があります。自動車検査証上の所有者とは文字通り自動車の所有者を意味します。

なお、自動車の購入者が自動車検査証上の所有者になるとは限りません。例えば、自動車をカーディーラー紹介のローン(ディーラーローン)を組んで購入した場合、自動車検査証上の所有者はカーディーラーやローン会社とすることが一般的です。これはディーラーローン債務の物的担保としての意味があります。そして、このような担保の仕組みは所有権留保と呼ばれます。

もっとも、所有者欄がカーディーラーやローン会社となっていれば、その自動車は必ず所有権留保であるという訳ではありません。なぜなら、カーディーラーの営業上の理由から便宜的に所有者をカーディーラーにしていることもあるからです。

これに対し、銀行系のローン(マイカーローン)を組んだ場合には自動車検査証上の所有者は購入者にすることが一般的です。

自動車検査証上の所有者がカーディーラーやローン保証会社か、それとも購入者かで日々の自動車の使用に違いは生じません。また、自動車税は所有者に納税義務がありますが、自動車検査証上の所有者と使用者が異なれば、使用者に納税義務があります。

よって、ディーラーローンとマイカーローンいずれかにするかの判断は、利息や審査などの融資条件の比較になると考えられます。

自動車検査証の使用者欄

自動車検査証の使用者欄には「使用者の氏名又は名称」と「使用者の住所」があります。自動車検査証上の使用者とは自動車を実際に管理・使用する人を意味します。

自動車検査証の使用の本拠の位置欄

自動車検査証の使用の本拠の位置とは自動車の使用者が自動車を使用する拠点を意味します。使用の本拠の位置と使用者の住所は多くの場合一致します。そして、使用の本拠の位置と使用者の住所が同一の場合、自動車検査証の使用の本拠の位置欄は「***」と記載されます。

また、使用の本拠の位置と使用者の住所が異なる場合とは、例えば住民票を移さず単身赴任した者が、赴任先で自動車を購入して使用する場合です。この場合、使用の本拠の位置は赴任先の住所です。

自動車保管場所証明書(車庫証明)

自動車の相続手続きを理解するには自動車保管場所証明書についても理解する必要があります。自動車保管場所証明書とは普通自動車が適切に保管されていることを管轄の警察署が証明する書類です。自動車保管場所証明書は一般に車庫証明と呼ばれます。自動車保管場所証明書は普通自動車の登録手続きをする際に必要ですが、普通自動車を保管する場所によっては不要な場合もあります。

また、軽自動車の登録手続きにおいては自動車保管場所証明書は不要ですが、登録後に自動車保管場所届出書の提出が必要です。

申請者

自動車保管場所証明書は自動車の使用者が自動車の本拠の位置を管轄する警察署に申請して取得します。すなわち、自動車登録の際には使用者を名宛人とした自動車保管場所証明書が必要です。

保管場所

自動車保管場所証明書が発行されるためには普通自動車の適切な保管場所を確保している必要があります。具体的には下記の要件を具備した保管場所が必要です。

  • 使用の本拠の位置と保管場所の位置が直線で2キロメートルを超えないこと。
  • 通行することができない道路以外の道路から、支障なく出入りさせ、かつ、自動車の全体を収容できること。
  • 保管場所として使用権原を有していること。

必要書類

  • 自動車保管場所証明申請書
  • 自動車保管場所標章交付申請書
  • 保管場所使用承諾証明書又は自認書
  • 保管場所の所在図・配置図

使用の本拠の位置の変更

普通自動車の使用の本拠の位置欄の変更を伴う自動車登録手続きをする場合、使用者は自動車保管場所証明書を取得しなければなりません。

自動車の相続の場面

自動車検査証及び自動車保管場所証明書の理解をしたところで、本題の自動車の相続手続きの説明に入ります。自動車の相続手続きの場面は主に2つの場面に分けられます。すなわち、自動車検査証の所有者欄及び使用者欄がいずれも被相続人である場合と、自動車検査証の使用者欄のみ被相続人である場合です。また、自動車検査証の所有者欄のみ被相続人である場合も理論上は考えられますが、実務上想定しづらいのでここでは割愛します。

所有者欄及び使用者欄が被相続人

自動車検査証の所有者欄及び使用者欄がいずれも被相続人であれば自動車の所有権が相続人に移転しますので、管轄官庁で被相続人から相続人への名義変更が必要です。そしてこの手続きは移転登録と呼ばれます。この場合の必要書類は不動産登記とほぼ同じです。そのため、この手続きは不動産の相続登記ならぬ、自動車の相続登録といえます。

所有者欄及び使用者欄がいずれも被相続人の場合、移転登録の際には使用者が変更されるので、使用の本拠の位置も併せて変更されるときがあります。この場合は新使用者である相続人が自動車保管場所証明書を取得する必要があります。

これに対し、使用の本拠の位置に変更がないときとは、例えば被相続人と、新使用者である相続人が生前に同居しており、自動車を被相続人の死亡後も同じ場所で保管するときです。この場合、この相続人は自動車保管場所証明書を取得する必要はありません。

使用者欄のみが被相続人

自動車検査証の使用者欄のみ被相続人である場合とは前述の所有権留保の場合が考えられます。すなわち、被相続人がディーラーローンを組んでいた場合です。この場合はさらに2つの場合に分けられます。それは被相続人が返済中に死亡した場合と、被相続人が完済後に死亡した場合です。

なお、いずれも場合も自動車の相続登録をするにあたって使用の本拠の位置に変更があるときは自動車保管場所証明書が必要です。

返済中の死亡

まず、被相続人が返済中に死亡した場合について説明します。被相続人が返済中に死亡した場合には自動車はまだ所有権留保の状態にあり、相続人は自動車の完全な所有権を取得していません。よって、相続発生後も所有者欄は変更されず、自動車の相続登録はできません。

この場合は通常自動車を引き継ぐ相続人を決めた上で、その者が残債を一括返済するか、その者が残債に代わる新たなローン契約をします。一括返済の場合は次の「完済後の死亡」と同じ手続きになります。

他方、自動車を引き継ぐ相続人が新たなローン契約をする場合は自動車検査証の使用者欄をこの相続人へ変更する手続きになります。この場合にはローン会社かその代理店が変更登録を行うと考えられます。よって、自動車を引き継いだ相続人は自動車の遺産分割協議書を作成してローン会社か代理店で契約手続きをします。

完済後の死亡

次に、被相続人が完済後に死亡した場合について説明します。被相続人が完済後に死亡した場合には自動車の所有権は、自動車の所有者欄の者から被相続人へ移転し、さらに相続より被相続人から自動車の相続人に移転したことになります。よって、不動産登記のように物権変動の過程を忠実に表現するならば自動車を一旦被相続人名義にしたのち、相続人名義にするべきです。

しかし、実務上はこのような方法をとっていないと思われます。すなわち、所有者欄の者から直接に自動車の相続人へ移転登録をします。具体的には所有者欄の者が自動車の相続人に対して譲渡証明書を発行し、この相続人が管轄官庁で移転登録をします。なお、この場合の手続きは相続による移転登録ではなく、譲渡による移転登録です。

遺産分割協議書の書き方

最後に自動車の遺産分割協議書の書き方の説明です。

自動車の遺産分割協議書を作成する場合、遺産分割協議の対象となる自動車を特定する必要があります。そこで、遺産分割協議書の自動車の表示には最低限、自動車登録番号と車台番号が記載されてあれば足りると考えられます。自動車登録番号とはナンバープレートに記載されてある情報です。

ここで、自動車登録番号のみで自動車を特定することは避けるべきです。なぜなら、管轄変更を伴う使用の本拠の位置の変更を含む自動車登録がなされると、自動車登録番号は変更されるからです。

例えば、A運輸支局管轄に使用の本拠の位置がある被相続人の自動車を、B運輸支局管轄に使用の本拠の位置がある相続人へ移転登録をすると、自動車登録番号は変更され、ナンバープレートは付け替えられます。

また、話はかわりますが、前述の「返済中の死亡」の場合、被相続人の生前は所有権留保の状態にあり、被相続人は自動車の完全な所有権を有していません。そのため、被相続人の遺産に自動車の所有権は含まれないと考えることもできます。しかし、所有権留保という制限付とはいえ、被相続人は自動車の所有権を有していたと解されるので遺産分割協議書は自動車の所有権を取得する内容で差し支えありません。