目次
特別代理人選任申立ての流れ
遺産分割協議
特別代理人の権限
特別代理人は自己が代理する未成年者のために遺産分割協議をする。特別代理人には、自己が代理する未成年が不利益を被らないように代理する義務がある。そして、この義務は善管注意義務であると解される。もっとも、特別代理人に善管注意義務を課す明文の規定はない。しかし、特別代理人が裁判所から委任を受けた代理人であると解すれば、民法644条(受任者の注意義務)が根拠条文となるだろう。
ただし、実務では特別代理人選任申立て段階で、申立人が遺産分割協議の案を提出するのが通例である。よって、裁判官はその遺産分割協議の内容が未成年者に不利でないかを審査する。そして、この審査の過程として、申立人や特別代理人候補者に遺産分割協議の内容に関する照会をすることがある。すなわち、特別代理人候補者が、特別代理人に選任される前に遺産分割協議の内容を把握するということである。この照会は、照会書に遺産分割協議の案を同封する方法で行われる。
そして、特別代理人が選任されれば、特別代理人はその遺産分割協議の案通りの遺産分割協議をする。よって、特別代理人の仕事は形式的なものである。つまり、特別代理人の仕事は完成された遺産分割協議書に実印を押印するだけである。
もっとも、特別代理人は申立て段階時に提出された遺産分割協議書案に必ずしも拘束されるわけではない。すなわち、特別代理人が、申立て段階で提出された遺産分割協議の案につき、自己が代理する未成年の利益に反すると判断すれば、遺産分割協議の内容の変更を提案する義務がある。例えば、申立て段階で把握していなかった遺産が新たに追加され、申立て時と異なる遺産分割協議が必要となる場合である。そしてこの場合は遺産分割協議の内容を再度検討する。
遺産分割協議の内容
遺産分割協議は、原則未成年者の法定相続分を確保する内容となる。また、相続税の申告があればそれも考慮して決める。相談段階で相続税の申告の有無を確認し、申告が必要であれば依頼者は税理士との打ち合わせも必要である。
相続税の申告を考慮しないのであれば、次のような内容にするのが手続き上簡易である。
被相続人の相続につき、相続人及びその特別代理人は協議を行い、以下の通り分割することを合意した。
第1条 遺産全てを【親権者】が取得する。
第2条 【親権者】は第1条の代償として、他の相続人に対し、各々の法定相続分に相当する金員を支払う。
なお、遺産分割協議の内容に、具体的な遺産内容やその価格を記載することは避け、それらの情報は遺産目録という形で別途裁判所に提出するとよい。
遺産目録
裁判官は遺産の内容を把握する必要があるので、遺産目録を作成する。遺産目録には、不動産であれば固定資産税の評価額、預貯金であれば直近の残高も記載するとよい。
不動産の価格
代償分割の際に問題となるは不動産の価格である。一般的には固定資産税の評価額を基に算定する。無論、不動産の価格は需要と供給で決まるので、評価額を算定根拠にすることは正確ではない。しかし、遺産分割協議の場合、不動産の価値を算出するための客観的な数値は固定資産税の評価額くらいしかないと思われる。但し、高額な不動産になれば、宅地建物取引業者の査定書や、不動産鑑定士による鑑定書が必要となることもありうる。
法定相続情報
申立ての際は被相続人の相続関係を疎明する必要がある。そこで、原則被相続人の出生から死亡までの除籍謄本等を提出する。そして、戸籍を提出する場合はその戸籍を原本還付をする必要がある。
しかし、裁判所における原本還付の手続きは煩雑である。そこで、特別代理人選任申立の前に、予め法定相続情報を作成し、それを戸籍を代わりに提出すると、原本還付の手間が省ける。
法定相続情報は認印の委任状で作成できるので、戸籍一式を預かる時点で委任状をもらっておくと迅速に作成に取り掛かれる。
候補者
前述の通り、特別代理人の仕事は原則申立者が作成した遺産分割協議書案の通りに協議をするだけである。よって、候補者の負担はそれほど大きなものではない。このような理由から、未成年者の祖父母や叔父叔母など、法律の専門家でない者が就任することも可能である。ただし、遺産分割協議の当事者である親権者と特別代理人は利害の対立する関係であるから、候補者が申立人に対し、債務を負担していたり、候補者が申立人から生活上の援助を受けていたりしていれば、候補者としては不適格である。無論、親権者と候補者の立場がこの逆の場合も同様である。よって、候補者の選定の際はそのような利害関係がないか事前に確認する必要がある。
また、申立て後、裁判所から候補者に回答書が送付される。回答書の記入はさほど難しいものではないが、一般の方がみると面をくらうことがある。よって、回答書の書き方についてもフォローする必要がある。このようなフォローが煩雑であれば、候補者を専門職に依頼することも手である。もっとも、専門職であれば回答書の記載で戸惑うことはないが、報酬が発生する。
申立て
申立先
未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所。
必要書類
- 申立書
- 送達受取人の指定申立書
- 親権者と未成年者の戸籍謄本(重複分は1通で可)
- 被相続人の相続関係を証する書面(戸籍、法定相続情報など)
- 遺産目録
- 遺産分割協議書の案
- 遺産の価格を証する書面(固定資産税名寄帳、残高証明書)
- 候補者の住民票抄本
- 収入印紙(未成年1人につき800円)
- 予納郵券数千円(管轄家庭裁判所で確認)
照会書
内容
申立てをすると、申立人、15歳以上の未成年者及び候補者には照会書が送付される。照会書の内容は各々異なるが、これを基に最終的に候補者の適格性を裁判官が判断する。よって、照会書の返答は重要な作業である。申立人に対する照会書には、「①申立ての経緯②候補者が適任と思う理由」の回答が求められることがある。これについては申立人が記入するのは骨が折れる作業であるから、専門職が代わりに文章を作成する必要がある。無論、弁護士であれば申立人から申立の委任を受けることが通常であるから、回答書も弁護士が回答すると考えられる。
審判
審判が下りたら、審判書を基に遺産分割協議をする。なお、家庭裁判所によっては、審判書に遺産分割協議書の案が合綴されている。
申立段階で、送達受取人を指定しておけば、審判書は受取人に送付されるので、不動産登記などの次の手続きにスムーズに入れる。