目次
第三者のためにする契約総説
定義
契約当事者の一方が、契約の直接の相手方でない第三者に対して債務を負うことを約束する契約(民法537条1項)。
例:被保険者が死亡した場合に、死亡保険金を被保険者指定の者に支払うことを内容とする保険契約。
要件
- 当事者間で契約をすること。
- 当事者の一方が第三者へ直接債務を履行する旨を約すること。
なお、第三者が給付を受ける権利は、第三者が債務者に対し受益の意思表示をした時に発生する(民法537条3項)。
効果
第三者は債務者に対し給付を請求できる。
第三者のためにする契約と中間省略登記
中間省略登記
宅建業者(不動産の仲介会社)は、不動産を仕入れて、売り渡すことがある。
例えば、宅建業者BがAから土地を購入し、Cへ売却する場合、通常であれば登記は下記の流れになる。
- AからBへの所有権移転登記
- BからCへの所有権移転登記
不動産登記法の理念は物権変動の過程を登記簿に忠実に表現することであるから、上記の通りに登記申請するのが通常である。
しかし、上記の通りに登記をすれば宅建業者Bには下記の負担がある。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 登記の司法書士報酬
そこで、宅建業者は上記の負担をなくすため、AからCへ直接所有権移転登記(中間省略登記)をしたいと考える。
旧不動産登記法
旧不動産登記法では、申請書に売買契約書か登記申請書副本を添付し、それに登記官が押印することで、登記済証を作成していた。
よって、添付書類として登記申請書副本を提出することで事実上中間省略登記が可能であった。
新不動産登記法
しかし、現行不動産登記法では登記原因証明情報を提出が必須となり、そこには登記原因、すなわち売買契約の内容や当事者を記載しなければならない。
そして、従来のように中間省略登記をするためには虚偽の内容の登記原因証明情報を作成しなければならないので、事実上可能であった中間省略登記は、事実上もできなくなった。
第三者のためにする契約と現行法
新しいスキーム
現行法では中間省略登記はできなくなったが、それに代わるスキームが生み出された。
それは第三者のためにする契約の理論である。
この理論を使えば、結果的に中間省略登記と同じことができる。
繰り返しになるが、中間省略登記は、A→B→Cへ順次所有権が移転しているにも関わらず、A→Cに直接所有権移転登記をすることである。
故に、AからBへ所有権が移転していなければ中間省略登記ではない。
ここで、押さえておかなければならないのは、下記の2つは必ずしも両立させる必要はないことである。
- AB間及びBC間で売買契約が成立すること。
- Bが売買の目的物の所有権を取得すること。
すなわち、AB間でA所有不動産の売買契約を締結するが、所有権は一時的にAに留保しておく。
その上で、BはCに対し、Aと売買契約をした不動産を売る。
但し、Bは不動産の所有者ではないので、BC間の売買契約は他人物売買である。
また、AB間では売買契約に付随して第三者のためにする契約をする。
よって、第三者であるCがAに対し、受益の意思表示をすれば、AからCへ直接所有権が移転する。
登記原因証明情報
事実
- 年月日、AとBは本件不動産につき売買契約を締結した。
- 上記の契約には下記の特約がある。
・売買代金全額を支払った時に所有権が移転する特約。
・本件不動産の所有権をBが指定する者(Bが自身を指定する場合もある。)に直接移転する特約。 - 年月日、Bは所有権の移転先としてCを指定した。
- 年月日、BはAに対し売買代金全額を支払った。
- 年月日、CはAに対し受益の意思表示をした。
- よって、年月日、本件不動産の所有権はAからCへ移転した。
記名押印者
- 登記権利者(必須ではない)
- 登記義務者
- 第三者を指定した者