このページの内容は個人が考えた理論やプロセスを紹介するものであり、手続の解決策や方法論を記載したものではありません。
事案
- 抵当不動産所有者X
- 抵当権登記名義人A
- Aは死亡しており、相続人は甲と乙
- 抵当権の登記を外したい
- Xは甲・乙と面識なし
- 登記手続につき、甲は協力、乙は非協力
方向性
- 抵当権移転登記(登記原因:相続)
- 抵当権抹消登記(登記原因:?)
ポイントは2番目の登記原因である。
登記原因は数パターンありそう。
時効消滅
消滅時効を援用して本件抵当権が消滅という理論構成をし、時効完成後に相続が発生していれば、そもそも抵当権移転登記が不要になる。
但し、登記義務者の甲又は乙が、A名義の権利証を持っていない場合、事前通知が必要。
これでは甲・乙に負担がかかる。(手続に非協力の乙の事はとりあえず保留しても、協力的な甲に事前通知の手続+印鑑証明書までは頼みづらい)
無論、本人確認情報作成は同じくらい頼みづらい。
抵当権解除
この手の問題では、甲・乙が抵当権解除するのが一番オーソドックスなパターン。
相続による抵当権移転登記を最初にするので登記識別情報が発行される
本件でも解除を利用して抹消したい。
しかし、乙が手続に非協力。
非協力であれば訴訟するしかない。
訴訟
抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟
(事件名だけでもこの長さ)
この場合は登記原因は「年月日判決」
この訴訟手続につき、甲と乙は裁判所に出廷する義務はないので、抵当権抹消に異論がなければ放置でOK。
だが、そのことにつき事前の説明は必須。
説明すればいいだけの話だが、甲を訴訟に巻き込まない方法はないのか。
※実際の事案はAの相続人の数は2人ではなくそれ以上、かつ、同意をもらうだけでも苦労していた。
抵当権放棄
そこで考えたのが抵当権放棄の方法。
- 甲から抵当権移転と抹消の委任をもらう
- 乙に対しては抹消登記を求める訴訟提起
- 乙がするべき登記はXが代位申請(債権者代位)
1件目
登記の目的 | 何番抵当権移転 |
原因 | 年月日相続 |
被相続人 | A |
相続人 | 持分〇分の△ 甲(申請人) 持分〇分の▲ 乙 |
2件目
登記の目的 | 何番抵当権甲持分移転 |
原因 | 年月日(抵当権)放棄 |
権利者 | 持分〇分の△ 乙(被代位者) |
代位者 | X |
代位原因 | 年月日判決の何番抵当権抹消登記請求権 |
義務者 | 甲 |
※抵当権の準共有者が持分を放棄すると他の共有者がその持分を原始取得する
※解除権の不可分性により甲のみの解除はできないので放棄を使う
3件目
登記の目的 | 何番抵当権抹消 |
原因 | 年月日判決 |
権利者 | X(申請人) |
義務者 | 乙 |
添付書類 | 判決正本、確定証明書、委任状 |
事件の終焉
実際の事案は訴状が被告に送達された後、被告が手続に協力することになったので、上記の方法をとらなかった。(甲・乙が抵当権解除して終了)
本件は下記の通りたくさんの論点があり、どこか障害になるものがあるかもしれない。
- 旧民法の相続分が適用
- 登記原因を判決とする抹消
- 債権者代位権の転用
- 判決による登記
- 持分の放棄
同じような案件はもうこないであろうから、この方法論は封印。