目次
制度概要
遺言書保管制度とは、遺言書保管所が自筆証書遺言を保管する制度である。遺言書保管所とは法務大臣が指定する法務局である。
自筆証書遺言は手軽に作成できる遺言であるが、作成後に紛失したり、改ざんされたりするリスクがある。そこで、遺言書保管制度により自筆証書遺言を法務局に保管すれば保管後に紛失・改ざんのリスクがなくなる。
また、遺言者の死亡後に自筆証書遺言を用いて相続手続きをする場合、家庭裁判所で検認を経る必要があるところ、遺言書保管制度で保管された自筆証書遺言を相続手続きに使用する場合には検認が不要である。※
※検認に準ずる手続きが必要である。
遺言者の手続き
保管の申請
遺言者は自筆証書遺言を作成後、遺言書保管所にその保管の申請をすることができる。保管の申請は、遺言者本人が遺言書保管所に出頭して行わなければならず、司法書士等が代理して保管の申請することはできない。また、郵送による申請はできない。
保管の申請時には申請者たる遺言者の顔写真付きの本人確認書類が必要である。
閲覧請求
遺言書保管所に遺言書を預けている者はその遺言書の閲覧を請求できる。
申請の撤回
遺言書保管所に遺言書を預けている者は保管の申請を撤回できる。保管の申請が撤回されると、預けられている遺言書は遺言者に返還され、預けられていた遺言書の遺言書保管所が保有する情報は消去される。
変更の届出
遺言書保管所に遺言書を預けている者は、自己の氏名・住所・本籍等に変更が生じた場合には変更の届出をしなければならない。
関係相続人等の手続き
関係相続人等
関係相続人等とは法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下、「法」という。」9条1項各号に規定される者を指す。関係相続人等の代表例は、遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者である。
関係相続人等は、遺言者が死亡した場合に、遺言書情報証明書の交付請求及び遺言書の閲覧請求ができる。また、遺言書保管事実証明書の交付請求は誰でもできるので、関係相続人等は遺言書保管事実証明書の交付請求もできる。
遺言書保管事実証明書の交付請求
遺言書保管事実証明書とは、関係遺言書が遺言書保管所に保管されているか否かを証明するものである。関係遺言書とは、自己が関係相続人等に該当する遺言書である(法9条2項)
遺言書保管事実証明書の交付請求をすることで、自己を相続人とする相続につき被相続人が遺言書を保管しているかや、自己を受遺者・遺言執行者とする遺言書が保管されているかなどを確認することができる。
遺言書情報証明書の交付請求
遺言書情報証明書とは、遺言書保管所に保管されてある遺言書の原本の代わりになるものである。関係相続人等は遺言書情報証明書を使って遺言者の相続手続きをすることができる。
遺言書の閲覧請求
遺言書の閲覧とは、遺言書保管所に保管されている遺言書の原本又はその画像を見ることである。
通知制度
遺言書保管制度では、遺言書の関係者に対し、遺言書保管所に遺言書が保管されていることを通知する制度がある。そして、この通知制度には関係遺言書保管通知と死亡時通知がある。
関係遺言書保管通知
関係遺言書保管通知とは、遺言書保管官が、関係相続人等に対し、遺言書保管所に遺言書が保管されていることを知らせる通知である(法9条5項、省令48条1項)。関係遺言書保管通知は関係相続人等の誰かが遺言書情報証明書の交付又は遺言書の閲覧を受けた場合になされる。なお、遺言書保管事実証明書が交付された場合には関係遺言書保管通知はなされない。
死亡時通知
死亡時通知とは、遺言書保管官が、遺言者が予め指定した者に対し、遺言書保管所に遺言書が保管されていることを知らせる通知である。死亡時通知は遺言書保管官が遺言者の死亡を確認した場合になされる。
死亡時通知は遺言者が希望する場合にのみなされるものである。そして、死亡時通知を希望する場合には、遺言書の保管の申請時に、その旨の申し出をする(準則19条1項)。
また、死亡時通知が送付される対象者は遺言者の推定相続人、受遺者、遺言執行者などの内、遺言者が指定する1名のみである。
なお、死亡時通知が送付される者を推定相続人とした場合、この死亡時通知を受ける者が遺言者の相続人であるとは限らない。例えば、遺言書の保管の申請時に、遺言者の配偶者を死亡時通知の対象としたとする。そして、その後に離婚すれば元配偶者は遺言者の相続人ではなくなるが、元配偶者に死亡時通知はなされる。
遺言書保管事実証明書の証明内容
前述のとおり、遺言書保管事実証明書とは関係遺言書が遺言書保管所に保管されているか否かを証明するものであるが、その証明内容は請求者が遺言者の相続人であるか、又はそれ以外の者かで異なる。
相続人の請求
相続人が、被相続人の遺言書が遺言書保管所に保管されているかを確認するため、遺言書保管事実証明書の交付請求をし、被相続人の遺言書が保管されている場合、かかる遺言書が保管されている旨の証明書が発行される。
これに対し、被相続人の遺言書が保管されていない場合、かかる遺言書が保管されていない旨の証明書が発行される。
相続人以外の請求
自己を受遺者・遺言執行者などとする遺言書が遺言書保管所に保管されているかを確認したい者は、特定の者を遺言者とする遺言書保管事実証明書の交付請求ができる。そして、かかる遺言書が保管されている場合、かかる遺言書が保管されている旨の証明書が発行される。
これに対し、自己を受遺者・遺言執行者などとする遺言書が保管されていない場合、かかる遺言書が保管されていない旨の証明書が発行される。
この場合、遺言書保管事実証明書は、その請求者を受遺者・遺言執行者などとする遺言書が保管されていない旨を証明するだけであるから、請求者を受遺者・遺言執行者などとしない遺言書が保管されている可能性がある。
例えば、遺言者Aと、Aの相続人ではないBがいたとする。そして、Bが自己を受遺者とするAの遺言書が保管されているかを確認するため、遺言書保管事実証明書の交付請求をした。しかし、Bを受遺者とするAの遺言書が保管されていなければ、その旨の証明がなされる。もっとも、この場合でも、「Bを受遺者とするAの遺言書」が保管されていないだけで、「Cを受遺者とするAの遺言書」が保管されている可能性はある。
遺言書保管事実証明書と遺言書情報証明書の違い
内容
遺言書保管事実証明書
遺言が保管されているか否かが証明される。
遺言書情報証明書
遺言書の原本の代わりになるものであり、遺言の内容が証明される。
請求権者
遺言書保管事実証明書
誰でも請求できる。
遺言書情報証明書
関係相続人等が請求できる。
手数料
遺言書保管事実証明書
800円/通
遺言書情報証明書
1,400円/通
添付書類の戸籍
遺言書保管事実証明書
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍
- 遺言者と請求者の相続関係を証明する戸籍
遺言書情報証明書
- 遺言者の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍
これは、遺言書情報証明書が交付されると、関係相続人等、すなわち遺言者の相続人に通知(関係遺言書保管通知)がいくからである。なお、関係遺言書保管通知の送付を受けた者が遺言書情報証明書の請求をする場合は戸籍の提出は不要である。