連帯保証人の分別の利益

分別の利益とは

単純保証人の分別の利益

単純保証の場合に保証人が複数いるとき、保証人はそれぞれ等しい割合で義務を負う(民法456条、同427条)。

例えば、100万円の貸金債権に対し、保証人が2人いる場合、保証人は各々50万円の債務を負う。

連帯保証人の分別の利益

これに対し、連帯保証人は分別の利益を有しないと解されている。

先の例でいうと保証人2人の内、一方のみが連帯保証人である場合も、両方連帯保証人である場合も、連帯保証人は分別の利益を有しない。

ところで、単純保証の場合に保証人が分別の利益を有することは、民法456条及び同427条の規定に基づく。

しかし、連帯保証人に分別の利益がないことに関して明文の規定はない。

そこで、連帯保証人に分別の利益がないことをどのように説明するか、すなわちその法律構成・解釈が問題となる。

ここで、学説上、連帯保証人に分別の利益がないという結論には争いはないと思われる。よって、連帯保証人に分別の利益がないことの根拠づけを考える。

単純保証と連帯保証の関係

保証の規定

個人根保証を除く保証の規定は民法446条ないし465条である。

そして、その中には連帯保証特有の規定(454条、458条)がある。

(454条は催告の抗弁及び検索の抗弁を排除する規定で、458条は連帯保証人に生じた事由が、主債務者にも効力を有する規定である。)

この規定ぶりからすると、保証の規定(446条ないし465条)は単純保証について総則的に規定しつつ、連帯保証特有の規定(454条、458条)を所々に置いているとみえる。つまり、単純保証と連帯保証が別々の規定ではなく、連帯保証は単純保証契約の特別版と解することができる。

債権者の保護

そうであれば、保証人に分別の利益を認めた民法456条、同427条は単純保証だけでなく、連帯保証の場合にも適用され得るのではないか。

しかし、このような解釈をすると、連帯保証人が増えれば増えるほど、債権者が連帯保証人各々に請求できる額が少なくなる。これは連帯保証が単純保証に比べて債権者保護を図っている法の趣旨からすると妥当な結論とは言えない。(もっとも、この場合でも債権者と各連帯保証人との間で、債務の全額を弁済すべき旨の特約(保障連帯)を結べば実務上問題は生じない。)

分別の利益の考察

単純保証と連帯保証の関係性による帰結

先に述べた通り、連帯保証が単純保証の特別版であるという観点を重視すれば、分別の利益の規定(民法456条、同427条)は連帯保証にも適用され得る。

すなわち、連帯保証人は分別の利益を有するという結論が導き出せる。

連帯債務と連帯保証の関係性による帰結

これに対し、連帯保証人に分別の利益がないことを説明するため条文は民法436条、同454条、同458条が考えられる。

第四百三十六条 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

第四百五十四条 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。

第四百五十八条 第四百三十八条、第四百三十九条第一項、第四百四十条及び第四百四十一条の規定は、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証人について生じた事由について準用する。

436条は数人が連帯して債務を負担する場合に、債権者が、連帯債務者各々に債務の全額を請求できる旨の規定である。

また、454条及び458条より、連帯保証とは、「主たる債務者と連帯して債務を負担」することを指すことがわかる。

そうすると、「連帯して債務を負担」という箇所を文言解釈すれば、連帯保証人に対しても、454条及び458条を介して436条が適用されると解される。

よって、連帯保証人に分別の利益がないことを説明できる。

両結論の整合性

ここで、「単純保証と連帯保証の関係性による帰結」と「連帯債務と連帯保証の関係性による帰結」で条文の解釈上矛盾が生じるかという問題がある。

すなわち、「単純保証と連帯保証の関係性による帰結」からすると、保証の規定の中で連帯保証特有のものは454条及び458条だけである。もし、連帯保証人に分別の利益がないのであれば、その旨の規定が、連帯保証特有の規定として存在しなければ整合性がとれないという主張が考えられる。

これに対しては下記の反論が考えられる(私見)。

454条及び458条は、債権者・債務者・連帯保証人の三者間の規定であるのに対し、436条は債権者・連帯保証人の二者間の規定である。

そして、三者間の規定と二者間の規定は必ずしも優先関係にあらず、両立し得る規定である。

よって、上記の整合性の問題は生じないと解する。

但し、異論があることは承知している。もっとも、結論に対立はないから、この程度の理解でよいかと思われる。