目次
個人根保証契約とは
個人根保証契約の問題点
保証契約には大きなリスクが伴うことは一般的に有名である。
しかし、根保証契約には保証契約より重い責任があることは一般的に知られていない。
というのも、平成29年民法改正前は、一部の個人根保証契約につき、極度額を定めない個人根保証契約、すなわち、保証する債務額が未確定の個人根保証契約も有効であった。
それにも関わらず、一般社会では主債務者から安易に根保証契約締結を頼まれることが多くある。(個人根保証契約の例は後述)
これでは保証人に予想外の大きな負担を強いることになる。
そこで、平成29年民法改正において、個人根保証契約につき保証人保護のための規定が追加された。
個人根保証契約の定義
個人根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないものを指す(民法465条の2第1項)。
個人根保証契約の成立
個人根保証契約は、書面か、電磁的記録によってしなければ効力を生じない(民法465条の2第3項、同446条2項、3項)。
また、個人根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項)。
ここで、債権者の立場からすると、高めの極度額を設定しておけば、極度額の定めによる制約を軽減できるとも思われる。
しかし、主債務及び保証契約の内容に対して、著しく高額な極度額が定められれば、公序良俗違反(民法90条)で極度額の定めが無効となり得るであろう。
個人根保証契約の効果
保証人は下記ついて、極度額を限度として履行する責任を負う(民法465条の2第1項)。
- 主たる債務の元本
- 主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償
- 主たる債務に従たる全てのもの
- 保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額
個人根保証契約の例
信用保証
商売人が金融機関と継続的に取引する場合、金融機関の債権は発生・消滅を繰り返すことが多い。
(これに対し、例えば住宅ローンではローン完済まで債権は消滅しないので、金融機関の債権は発生・消滅を繰り返すことを予定していない。)
債権の発生・消滅の度に保証契約を締結することは煩雑であるから、金融機関との間で発生・消滅する債権を包括的に保証人で担保すると便利である。
これが信用保証である。
なお、銀行融資の際に信用保証協会を利用するのは個人根保証契約ではない。
なぜなら、保証人である信用保証協会は法人だからである(信用保証協会法2条)。
不動産賃貸借契約の保証
不動産の賃借人が、賃貸人に対し負う債務の保証契約である。
賃貸借契約の場合、賃借人が家賃を滞納しつつ、賃借物件に居座れば滞納額が延々と増加する。
また、賃貸借契約終了後の原状回復義務も保証債務に含まれると解される。
そして、原状回復義務の額は賃借人の利用態様次第で変動する。
よって、保証人は保証契約締結時に保証の範囲を把握することが困難である。
身元保証
雇用契約において、被用者が使用者に負う債務の保証契約である。
被用者が使用者に負う債務とは、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償債務が考えられる。
雇用契約が労務を提供する債務であるから、身元保証では保証人が金銭債務を保証しているという認識が薄いのが特徴と言える。
個人根保証契約の元本確定事由
下記の場合に元本が確定する(民法465条の4第1項)。
- 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。)。
- 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
- 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
個人貸金等根保証契約
個人貸金等根保証契約の定義
個人貸金等根保証契約とは、個人根保証契約であって、その主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるものを指す(民法465条の3第1項)。
個人貸金等根保証契約には、個人根保証契約にはない元本確定期日についての規制(民法465条3)がある。
個人貸金等根保証契約の元本確定事由
個人根保証契約の元本確定事由(民法465条の4第1項)の加えて、下記の場合にも元本が確定する(民法465条の4第2項)。
- 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。)。
- 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。