目次
事前通知概要
事前通知とは登記識別情報を提供する登記申請の場合で、登記識別情報を提供できないときに登記義務者に対し次を通知する制度である。
- 登記申請があった旨
- 登記申請の内容が真実であれば一定期間内に法務局に対しその申出をする旨
そして、2の期間内にこの申出がないと登記申請は却下される。但し、実務では直ちに却下ではなく、登記官から取下げをすることを促される。
登記申請書の書き方
事前通知がなされるのは登記識別情報を提供できない場合であるから、登記申請書には次のようにを記入すると事前通知がなされる。すなわち、登記申請書に「事前通知を希望する」などと記入する必要はない。
登記の目的 抵当権抹消
原 因 年月日解除
権 利 者 A
義 務 者 B
登記識別情報の提供の有無: 無し
登記識別情報を提供できない理由:失念(登記済証の場合は紛失)
事前通知の送付方法
このように事前通知の場合には登記義務者に事前通知の内容を記した書面が送付されるが、この通知の送付方法は登記義務者が自然人か法人か等によって異なる(不動産登記規則70条1項)。
- 登記義務者が自然人の場合、自然人の住所に本人限定受取郵便で送付される。
- 登記義務者が法人で、送付先が法人代表者の住所の場合、その住所に本人限定受取郵便で送付される。
- 登記義務者が法人で、送付先が法人の本店(主たる事務所)の場合、その住所に書留郵便で送付される。
- 登記義務者が外国に住所を有する場合、その住所に書留郵便で送付される。
法人の送付先
登記義務者が法人の場合には事前通知の送付先は次の3つが考えられる。
- 法人の本店(主たる事務所)
- 法人の代表者の住所
- 法人の支配人の営業所
1と2は不動産登記規則70条1項に規定される。
3につき、不動産登記規則70条1項では明らかでない。
もっとも、事前通知をする契機(=きっかけ)となった登記申請で支配人が登記義務者たる法人を代表していれば、当該支配人の営業所へ事前通知を発送することは認められるだろう。登記実務もこのような解釈で運用されていると考えられる。
※株式会社日本政策公庫が登記義務者である抵当権抹消登記につき支配人の営業所への事前通知発送は可能であった。
なお、支配人の営業所へ事前通知送付を希望する場合は登記申請書の「その他事項の欄」に下記の通り記載すべきであろう。
「支配人の営業所へ事前通知の送付を希望する。」
事前通知に対する申出
事前通知がなされた場合には事前通知を受け取った者は一定期間内に申出をすることになる。
この申出の法方法は事前通知をする契機となった登記申請の方法によって異なる(不動産登記規則70条)。
電子申請の場合
事前通知の契機となった登記申請が電子申請の場合、申出も電子申請の方法でする。すなわち、申出にかかる情報に電子署名を行った上で登記所に送信する。
なお、事前通知の契機となった登記申請が電子申請の場合でも、事前通知自体は書面送付の方法で行われる(不動産登記規則70条1項柱書)。
書面申請の場合
事前通知の契機となった登記申請が書面申請の場合、申出は書面提出の方法でする。
具体的には、事前通知に同封される申出書に記名し、申請書又は委任状に押印したものと同一の印で押印した上、登記所に提出する。
また、この書面提出方法は登記所への持参又は郵送である。
特例方式の場合
事前通知の契機となった登記申請が特定方式の場合、申出は書面申請の場合と同様に書面提出の方法でする(平成20年1月11日法務省民二第57号)。
申出期間
申出は法務局が通知を発送した日から二週間以内にしなければならない。(登記義務者が外国に住所を有する場合は、四週間)
事前通知を要しない場合
事前通知は登記義務者の登記識別情報を提供できないという例外の場合になされる。
そして、この例外の場合に該当しても、例外の例外として事前通知がなされない場合がある。
本人確認情報の提供
登記申請人の代理人が、申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報(本人確認情報)の提供をし、かつ、登記官がその内容を相当と認めた場合には事前通知はなされない。
不動産決済においては同時履行を担保するために事前通知にかえて本人確認情報の提供がなされるのが通例である。
公証人認証
公証人が申請人が登記義務者であることを確認するための必要な認証をし、かつ、登記官がその内容を相当と認めた場合には事前通知はなされない。
なお、この方法は実務ではほとんど使われない。
申請を却下すべき場合
申請に却下事由があれば事前通知はされない。
前住所地への通知
事前通知をする契機となった登記申請が所有権に関するものである場合に、登記義務者につき住所変更登記がされているときは登記義務者の登記記録上の前住所に、前住所地への通知をしなければならない(不動産登記法23条2項)。
これを「前住所への通知」という。
前住所地への通知は転送を要しない郵便物として送付される(不動産登記規則71条1項)。
前住所地への通知と事前通知は別の手続きである。
前住所地への通知が不要な場合
前住所への通知は次の場合にはなされない(不動産登記規則71条2項)。
- 住所変更登記が行政区画の変更による場合
- 事前通知をする契機となった登記申請の申請日が、最後の住所変更登記の受付日から3ヶ月を経過している場合
- 登記義務者が法人である場合
- 本人確認情報が提供された場合で、当該本人確認情報の内容により申請人が登記義務者であることが確実であると認められるとき
事前通知と前住所への通知の省略
前述のとおり本人確認情報の内容につき申請人が登記義務者であることが相当と認められれば事前通知が不要になる。
そして、相当を上回つ確実性がある場合、すなわち、登記義務者が本人であることが確実であると認められれば前住所地への通知も不要になる。
もっとも、本人確認情報の内容につき、相当と確実を区別するのは容易ではない。そのため、登記官が前住所地への通知手続きを省略することは稀だろう。