配偶者の居住の権利

配偶者の居住の権利総説

配偶者の居住の権利の種類

配偶者の居住の権利には、配偶者居住権と配偶者短期居住権がある。

配偶者の居住の権利の比較

  配偶者居住権 配偶者短期居住権
成立 合意・遺贈・審判 合意なしに当然に発生
存続期間 終身の間 6ヵ月
建物所有者の登記義務 有(1031条)
第三者対抗力 登記を備えれば有(1031条2項)
配偶者の善管注意義務 有(1032条1項) 有(1038条1項)
配偶者の権利 使用・収益(1028条1項) 使用(1037条1項)
譲渡の可否 否(1032条2項) 否(1041条、1032条2項)

配偶者居住権

配偶者居住権の趣旨

問題の所在

被相続人の配偶者(以下、「配偶者」という。)が自己の居住する建物を住み続ける権利を確保するために創設された。

被相続人の死亡時に、配偶者が被相続人の所有建物に居住している場合、配偶者は終身の間、その建物で暮らし続けるという期待を持っていることが多い。

ただ、遺産分割協議において、配偶者が自己が居住している建物及びその敷地利用権を取得すれば、配偶者が取得する現預金価格が少なくなる。

これでは配偶者は自分が住み続ける家を確保できても、生活資金を確保できない場合が出てくる。

例1
遺産総額1,000万円(建物及び敷地の価格500万円、現金500万円)で、法定相続人が妻と子一人の場合、

配偶者の相続分:子の相続分=1:1だから、妻が建物及び敷地(500万円)を取得すれば、子が現金(500万円)を取得することになる。

 

配偶者が必要な権利

ところで、配偶者は居住している家の所有権が必要なのか。

そもそも所有権は、①使用する権利、②収益する権利、③処分する権利を包含している権利。

配偶者が被相続人が所有していた家で生活することのみを望んでいれば、所有権の内、「③処分する権利」は不要である。

そこで、配偶者が不動産を「①使用する権利」及び「②収益する権利」を新たに創設した。

これが配偶者居住権である。

遺産分割協議で配偶者が居住する建物の所有権ではなく、配偶者居住権を取得することで、取得する不動産の価格が抑えられ、その分、現預金の取り分が増加する。

先の例でいえば、

例2
遺産総額1,000万円(建物及び敷地の価格500万円、現金500万円)で、法定相続人が妻と子一人の場合、

配偶者居住権の価格を300万円とすれば、配偶者は配偶者居住権(300万円)と現金(200万円)を取得し、子は建物と敷地の所有権(500万円-300万円=200万円)と現金(300万円)を取得する。

配偶者居住権の要件

  1. 被相続人の相続開始時に配偶者が被相続人の建物に居住していた
  2. 建物が、被相続人と「配偶者以外の者」の共有でない
  3. 遺産分割協議により配偶者が配偶者居住権を取得した又は配偶者居住権が遺贈された

なお、遺産分割の審判において、裁判所により配偶者居住権を認められることがある(民法1029条)。

配偶者居住権の効果

債権の成立

配偶者居住権は債権である。

従って、他の共同相続人たる建物所有者からの建物を取得した者(第三取得者)に対しては原則、配偶者居住権を対抗することができない(債権の相対性)。

但し、配偶者居住権を登記することで第三者に対抗することができる(民法1031条2項、605条)。

これはいわゆる、「不動産賃借権の物件化傾向」と同じ理屈である。

持戻し免除の意思表示の推定規定

特別受益の規定を適用しない旨の意思表示をしたと推定される規定(民法903条4項)は、配偶者居住権の遺贈する場合について準用される(民法1028条3項、903条4項)。

存続期間

配偶者の終身の間(民法1030条)。

登記請求権

建物所有者は配偶者居住権の設定登記をする義務がある(民法1031条)。

制限

配偶者居住権は譲渡できない(民法1032条2項)。

以下をする場合は建物所有者の承諾が必要である(民法1032条3項)。

  • 建物の増築・改築
  • 建物を第三者に使用・収益させること

義務

配偶者は建物を使用・収益に関して善管注意義務があり(民法1032条1項)、建物の通常の必要費を負担する(民法1034条)。

使用・収益権

配偶者は建物を使用・収益する権利がある(民法1028条1項)。

また、それに必要な修繕をすることができる(民法1033条1項)。

刑法との関係

建物に配偶者居住権が設定されている場合、自己の物ではなく、他人の物とみなされる(刑法115条、262条)。

配偶者短期居住権

配偶者短期居住権の趣旨

問題の所在

配偶者が被相続人の建物に居住している場合、配偶者が遺産分割によりその建物を取得しないときは、配偶者は建物に関して占有権原がなくなる。

したがって、遺産分割協議成立後、配偶者は建物から退去を迫られる。

さらに、遺産分割の遡及効(民法909条)により、相続開始から建物明渡までの間は占有権原がないので、賃料相当額の不法利得返還義務まで負うことになる。

実務の運用

この点、判例(最判平成8年12月17日)は、下記の解釈により建物に居住していた相続人の保護を図っていた。

「共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居していたときは, 特段の事情のない限り,被相続人と当該相続人との間で,相続開始時を始期とし, 遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。」

この判例を踏まえて、配偶者の建物居住に対する期待の保護を図るための制度が創設された。

これが配偶者短期居住権である。

配偶者短期居住権の要件

  • 相続開始時、配偶者が被相続人の建物に無償で居住している
  • 配偶者が相続欠格に該当しない
  • 配偶者が推定相続人の廃除をされていない
  • 配偶者居住権を取得していない

配偶者短期居住権の効果

存続期間

遺産分割を要する場合

次のいずれか遅い日まで建物を無償で使用できる(民法1037条1項1号)。

  • 建物の遺産分割により建物の帰属が確定した日
  • 相続開始から6か月経過した日
遺産分割を要しない場合

建物取得者から配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月経過するまで建物を使用できる(民法1037条1項2号)。

「遺産分割を要しない場合」とは、建物が配偶者以外に特定遺贈された場合などが考えられる。

一身専属の権利

配偶者が死亡した場合は配偶者短期居住権は消滅する(民法1041条、597条3項)。

登記請求権

配偶者短期居住権には第三者対抗力がない(債権)。

したがって、登記請求権はない。

制限

配偶者短期居住権は譲渡できない(民法1041条、1032条2項)。

義務

配偶者は建物を使用・収益に関して善管注意義務があり(民法1038条)、建物の通常の必要費を負担する(民法1041条、1034条)。

使用権

配偶者短期居住権は建物を使用する権利のみある。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です