目次
概要
不動産登記法第70条の2の規定による抹消とは、登記義務者である法人が解散し、その清算人の所在が判明しないため、法人と共同して先取特権、質権又は抵当権の抹消を申請することができない場合に、一定の要件の下、登記権利者が単独で当該登記の抹消を申請することができる制度である。
かかる制度は令和5年4月1日より創設された。
ここではかかる制度による申請を「法70条の2の申請」という。
ところで、従来は解散した法人の先取特権、質権又は抵当権の抹消登記を申請するには、法人の清算人を選任することが一般的であった。しかし、今後はこの手続きが主流となるだろう。
不動産登記法
(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第七十条の二 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
要件
法70条の2の申請の要件は次をいずれも満たすことである。
- 登記義務者である法人の解散から30年経過している。
- 抹消する先取特権、質権又は抵当権の被担保債権の弁済期から30年経過している。
- 法人の清算人の所在が判明しない。
上記1は法人の閉鎖登記簿謄本を取得すると明らかである。
上記2は抹消する先取特権、質権又は抵当権が設定されている不動産の閉鎖登記簿謄本を取得すると判明することが多い。
問題は上記3をいかにクリアするかだ。
清算人の所在不明
例えば登記義務者が信用購買販売利用組合や、農業会の場合、時期的にみて法人の清算人全員が死亡していると推測される。
この場合には法人閉鎖登記簿謄本記載の清算人の住所を本籍地として、管轄市町村で死亡記載のある戸籍謄本を請求すると、大抵清算人の死亡を証する戸籍謄本が取得できる。
その上で、「法人の清算人全員が死亡している場合」が、不動産登記法70条の2の「法人の清算人の所在が判明しない」場合に該当するかという問題が生じる。
この点につき条文を文理解釈すると該当しないとも考えられる。
しかし、通達(法務省民二第538号令和5年3月28日)は該当するとしている。
添付書類
法70条の2の申請には次のものが必要である。
法人の解散の日を証する情報
法人の解散の日を証する情報とは、具体的には法人の閉鎖登記簿謄本である。
法人の閉鎖登記簿謄本は法人の本店又は事務所を管轄する法務局で取得する。例えば、商業・法人登記の管轄が地方法務局本局であれば、そこに請求する。
被担保債権の弁済期を証する情報
被担保債権の弁済期を証する情報の代表例は、抹消する先取特権、質権又は抵当権が設定されている不動産の閉鎖登記簿謄本である。不動産の閉鎖登記簿謄本は、調査対象の不動産の不動産登記を管轄する法務局で取得する。
そして、不動産の閉鎖登記簿謄本は最初にコンピュータ化に伴う閉鎖に基づくものを請求する。
ところで、旧不動産登記法では被担保債権の弁済期が登記事項であった。よって、不動産の閉鎖登記簿謄本を取得して、被担保債権の弁済期から30年経過しているかを確認できる。
また、被担保債権の弁済期を証する情報としては、金銭消費貸借契約証書や弁済猶予証書が考えられるが、これらを提供できるケースは稀だろう。
法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報
法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報とは、具体的には調査報告書である。
この調査報告書は不動産登記法70条2項に規定する方法による調査結果を記載した報告書である。
調査
法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報としての調査報告書は、不動産登記法70条2項に規定する方法で調査するが、具体的な調査方法は不動産登記規則152条の2に規定される。
不動産登記規則
不動産登記規則152条の2は、登記義務者が自然人である場合と、法人である場合を分けて調査方法を規定している。
ここではこのうち、登記義務者が法人である場合の調査方法を説明する。
なお、不動産登記法70条2項では「共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しない」ことの疎明が要求されるのに対し、不動産登記法70条の2では「法人の清算人の所在が判明しない」ことの疎明が要求される。
よって、両者では疎明内容が若干異なる。その反面、調査方法はいずれも不動産登記法70条2項が委任する不動産登記規則152条の2に基づいてなされる。
そのため、かかる調査方法で、「法人の清算人の所在が判明しない」ことの疎明をする場合、調査方法及び調査結果報告書の記載が若干ちぐはぐになる。
調査方法
清算人の死亡
既述のとおり、「法人の清算人全員が死亡している場合」、不動産登記法70条の2の「法人の清算人の所在が判明しない」場合に該当する(法務省民二第538号令和5年3月28日)。
よって、法人の清算人全員が死亡している場合には清算人の死亡記載のある除籍謄本を取得する。
なお、法人閉鎖登記簿謄本記載の清算人が、時期的にみて、昭和23年式戸籍編成前の戸籍謄本上で死亡していると推測できる場合、法人閉鎖登記簿謄本上の清算人の住所を清算人の本籍地として清算人の死亡記載のある戸籍謄本を請求する。
また、清算人全員が死亡している場合には清算人宛の書留郵便等の送付は無意味であるから、かかる送付は不要であろう。
さらに、法人が清算結了している場合には法人宛の書留郵便等の送付は無意味であるから、かかる送付は不要であろう。
調査報告書の書き方
調査報告書には既述の調査方法の流れに沿って調査結果を記入する。
ここでは、登記義務者である法人が解散及び清算結了し、清算人全員死亡している場合の書き方の方針を説明する。
なお、被担保債権の弁済期から30年経過している旨の記載は余剰記載である。なぜなら、調査報告書は「法人の清算人の所在が判明しない」ことを疎明するものだからだ。
法人の解散から30年経過している旨の記載も同様である。もっとも、かかる疎明の一環として記載するのは構わないが、清算人全員が死亡してる場合は記載する実益はないだろう。
また、不動産の表示や抵当権の表示も原則不要である。
登記義務者の法人登記簿
- 法人の解散日
- 法人の清算結了日
- 清算人の住所・氏名
法人の清算人
- 清算人が死亡している旨
- 清算人の死亡日
法人の所在の調査
- 法人の名称や事務所が不動産登記事項証明書と相違する場合はその詳細
- 法人が清算結了しているので書面送付はしていない旨
法人代表者の所在の調査
- 法人の清算人全員が死亡しているので、書面送付はしていない旨
法人の所在不明
- 法人の清算人全員が死亡しているので、不動産登記法70条の2の「法人の清算人の所在が判明しない」場合に該当する旨
添付書類
- 法人閉鎖登記簿謄本
- 不動産閉鎖登記簿謄本
- 清算人の除籍謄本
登記申請書
登記の目的 抵当権抹消
原 因 不動産登記法第70条の2の規定による抹消
権 利 者 所有者
義 務 者 法人の名称・事務所
添 付 情 報 登記原因証明情報 代理権限証明情報 (変更証明情報)
登録免許税 不動産の個数×1,000円
不動産の表示
対象登記の順位番号 1番
登記義務者である法人の代表者(清算人)の氏名の記載は不要だろう。
不動産登記法
(除権決定による登記の抹消等)
第七十条登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。
2前項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。
3前二項の場合において、非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で第一項の登記の抹消を申請することができる。
4第一項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。
(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第七十条の二登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
不動産登記規則
(法第七十条第二項の相当の調査)
第百五十二条の二法第七十条第二項の法務省令で定める方法は、次の各号に掲げる措置をとる方法とする。
一法第七十条第二項に規定する登記の抹消の登記義務者(以下この条において単に「登記義務者」という。)が自然人である場合
イ共同して登記の抹消の申請をすべき者の調査として次の(1)から(5)までに掲げる措置
(1)登記義務者が記録されている住民基本台帳、除票簿、戸籍簿、除籍簿、戸籍の附票又は戸籍の附票の除票簿(以下この条において「住民基本台帳等」という。)を備えると思料される市町村の長に対する登記義務者の住民票の写し又は住民票記載事項証明書、除票の写し又は除票記載事項証明書、戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書並びに戸籍の附票の写し及び戸籍の附票の除票の写し(以下この条において「住民票の写し等」という。)の交付の請求
(2)(1)の措置により登記義務者の死亡が判明した場合には、登記義務者が記録されている戸籍簿又は除籍簿を備えると思料される市町村の長に対する登記義務者の出生時からの戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書の交付の請求
(3)(2)の措置により登記義務者の相続人が判明した場合には、当該相続人が記録されている戸籍簿又は除籍簿を備えると思料される市町村の長に対する当該相続人の戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書の交付の請求
(4)(3)の措置により登記義務者の相続人の死亡が判明した場合には、当該相続人についてとる(2)及び(3)に掲げる措置
(5)(1)から(4)までの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が判明した場合には、当該者が記録されている住民基本台帳又は戸籍の附票を備えると思料される市町村の長に対する当該者の住民票の写し又は住民票記載事項証明書及び戸籍の附票の写し((1)の措置により交付の請求をしたものを除く。)の交付の請求
ロ共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の(1)及び(2)に掲げる措置
(1)登記義務者の不動産の登記簿上の住所に宛ててする登記義務者に対する書面の送付(イの措置により登記義務者の死亡及び共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合を除く。)
(2)イの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該者に対する書面の送付
二登記義務者が法人である場合
イ共同して登記の抹消の申請をすべき者の調査として次の(1)及び(2)に掲げる措置
(1)登記義務者の法人の登記簿を備えると思料される登記所の登記官に対する登記義務者の登記事項証明書の交付の請求
(2)(1)の措置により登記義務者が合併により解散していることが判明した場合には、登記義務者の合併後存続し、又は合併により設立された法人についてとる(1)に掲げる措置
ロイの措置により法人の登記簿に共同して登記の抹消の申請をすべき者の代表者(共同して登記の抹消の申請をすべき者が合併以外の事由により解散した法人である場合には、その清算人又は破産管財人。以下この号において同じ。)として登記されている者が判明した場合には、当該代表者の調査として当該代表者が記録されている住民基本台帳等を備えると思料される市町村の長に対する当該代表者の住民票の写し等の交付の請求
ハ共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の(1)及び(2)に掲げる措置
(1)登記義務者の不動産の登記簿上の住所に宛ててする登記義務者に対する書面の送付(イの措置により登記義務者が合併により解散していること及び共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合を除く。)
(2)イの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該者に対する書面の送付
ニイ及びロの措置により共同して登記の抹消の申請をすべき者の代表者が判明した場合には、当該代表者の所在の調査として書留郵便その他配達を試みたことを証明することができる方法による次の(1)及び(2)に掲げる措置
(1)共同して登記の抹消の申請をすべき者の法人の登記簿上の代表者の住所に宛ててする当該代表者に対する書面の送付
(2)イ及びロの措置により当該代表者が所在すると思料される場所が判明した場合には、その場所に宛ててする当該代表者に対する書面の送付