目次
取引時確認とは
司法書士又は司法書士法人は「特定受任行為の代理等を行うことを内容とする契約の締結その他の政令で定める取引」を行うに際して犯罪による収益の移転防止に関する法律4条1項各号の確認を行わなければならない。
これを取引時確認という(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条6項)。
特定受任行為の代理等
「特定受任行為の代理等」とは例えば「特定業務」に該当する登記手続きの申請代理である。
特定業務
「特定業務」とは例えば以下のものである。
- 宅地・建物の売買
- 会社の設立
- 財産の管理・処分
本人特定事項
取引時確認の確認事項の一つに本人特定事項がある。司法書士又は司法書士法人は取引時確認において確認する本人特定事項の内容は顧客が自然人か法人かで異なる。
顧客が自然人の場合
顧客が自然人の場合、本人特定事項とは顧客の
- 氏名
- 住居
- 生年月日
である。
なお、司法書士業務における顧客とは委任者や依頼者をいう。
顧客が法人の場合
顧客が法人の場合、本人特定事項とは顧客の
- 名称
- 本店又は主たる事務所
である。
また、顧客が法人の場合には顧客の代表者等たる自然人についても、その
- 氏名
- 住居
- 生年月日
を確認する(犯罪による収益の移転防止に関する法律4条4項)。
代表者等とは顧客が法人の場合に「現に特定取引等の任に当たっている自然人」(法4条4項)をいう。
また、自然人である「顧客」の取引時確認の方法と、自然人である「代表者等」の取引時確認の方法は同じである。
取引時確認(本人特定事項の確認)方法
取引時確認(本人特定事項の確認)方法は犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条に規定される。
顧客が自然人の場合に取引時確認(本人特定事項の確認)方法で最も簡便な方法は「対面で写真付き本人確認書類の提示を受ける方法」である。(犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項1号イ、同7条1号)
しかし、顧客が遠方に居住している場合にはこの「最も簡便方法」がとれない場合がある。
そこで、代替手段として利用されるのが犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項1号チ及び同リに基づく確認である。この確認方法をここでは便宜上「送付による取引時確認方法」と呼ぶ。
なお、顧客が法人の場合には法人の代表者等である自然人について「送付による取引時確認方法」で取引時確認(本人特定事項の確認)をする。
(顧客が法人の場合の顧客の取引時確認(本人特定事項の確認)方法は犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項3号で規定される。)
また、取引時確認(本人特定事項の確認)方法に優劣はない。すなわち、「対面で写真付き本人確認書類の提示を受ける方法」と、「送付による取引時確認方法」は適宜に選択できる。
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項1号チ基づく取引時確認の方法
規則6条1項1号チ基づく取引時確認の方法とは後述の本人確認書類の原本の送付を受ける方法である。そのため、この方法では運転免許証やマイナンバーカードを本人確認書類とすることは事実上できない。
※1顧客が登記義務者であれば、委任状に押印する実印の印鑑証明書の原本の送付を受けることで足りる。もっとも、これに加えて運転免許証・マイナンバーカード・健康保険証などの写しの送付を受けることが望ましいだろう。
※2取引関係文書には登記の委任状や受任内容を確認する文書がある。
※3書留は一般書留、簡易書留いずれでも可。
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項1号リに基づく取引時確認の方法
規則6条1項1号リに基づく取引時確認の方法とは後述の本人確認書類の写しの送付を受ける方法である。そのため、この方法では運転免許証やマイナンバーカードを本人確認書類とすることができる。但し、本人確認書類の写しは住居の記載のあるもの二点が必要である。
※1本人確認書類の写し二点の送付を受ける方法は郵送だけでなくFAX・メールでも可。
※2取引関係文書には登記の委任状や受任内容を確認する文書がある。
※3書留は一般書留、簡易書留いずれでも可。
送付する理由
そもそも取引時確認は本人の実在性及び本人の同一性を確認するためになされる。
そして、本人確認書類の写しの送付を受けることで本人の実在性を、取引関係文書を送付することで本人の同一性を確認している。
本人確認書類
取引時確認(本人特定事項の確認)で確認する本人確認書類には例えば次のものがある。
自然人の場合
- 運転免許証
- 個人番号カード(マイナンバーカード)
- 国民健康保険証
- 健康保険証
- 印鑑登録証明書
- 戸籍の附票の写し
- 住民票の写し
なお、写真付きではない本人確認書類には諸々の制約が伴うため、できるだけ写真付き本人確認書類で確認する。
法人の場合
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則6条1項3号に基づく、顧客が法人の場合の本人確認書類には次のものがある。
- 法人の設立の登記に係る登記事項証明書
- 印鑑登録証明書
法人の登記事項証明書は誰でも取得できるが、送付による取引時確認方法においては顧客に取得してもらうほうが簡便である。
問題となる事例
顧客が自然人の場合、本人確認書類の送付には手こずらないだろう。
すなわち、顧客が登記権利者であれば住民票と、運転免許証・マイナンバーカード・健康保険証のいずれかのコピーの送付を、顧客が登記義務者であれば印鑑証明書と、運転免許証・マイナンバーカード・健康保険証のいずれかのコピーの送付を受ける。
また、顧客が法人の場合に法人を対象する取引時確認のための本人確認書類の送付にも手こずらないだろう。
すなわち、顧客たる法人の登記事項証明書原本か印鑑証明書原本の送付を受ける。
これに対し、顧客が法人の場合に代表者等である自然人を対象する取引時確認のための本人確認書類の送付には手こずる。
すなわち、この場合には代表者等である自然人の運転免許証及びマイナンバーカードのコピーの送付受ければ事足りるが、これらのいずれかがない場合には住居の記載のある証明書を取得しなければならないからである。
ここで、健康保険証を利用することを思いつくであろうが、健康保険証の裏面の住所は自署形式である。そのため、健康保険証を本人確認書類として利用するには住所を自署をしたものを送付してもらう必要がある。
健康保険証が利用できない場合には代表者等である自然人の住民票を取得してもらうのが一番簡易である。しかし、顧客である法人が登記義務者又は登記権利者である場合に、代表者等である自然人の住民票までも取得してもらうのは抵抗があるだろう。これが本人確認書類の送付に手こずる理由である。
補完書類
前述の本人確認書類がない場合には補完書類が認められている。例えば、「送付による取引時確認方法」において、本人確認書類二点の内、一点に住居の記載がない場合に、その住居のない本人確認書類に代えて送付を受ける書類である。
「送付による取引時確認方法」における補完書類とは、領収日付の押印又は発行年月日の記載がある書類である。
なお、領収日付の押印又は発行年月日は、特定事業者たる司法書士又は司法書士法人がその送付を受ける日前六月以内のものに限られる。
補完書類には例えば次のものがある。
- 国税又は地方税の領収証書又は納税証明書
- 社会保険料の領収証書
- 公共料金(日本国内において供給される電気、ガス及び水道水その他これらに準ずるものに係る料金の領収証書
本人限定受取郵便
このように「送付による取引時確認方法」は煩雑であるため、「本人限定受取郵便を利用すればよいのでは」という考えが浮かぶ。
しかし、本人限定受取郵便を利用した取引時確認(本人特定事項の確認)は、本人限定受取郵便の内、特定事項伝達型のみでしか利用できない。
そもそも本人限定受取郵便には下記のものがある。
- 基本型
- 特例型
- 特定事項伝達型
しかし、特定事項伝達型の利用には事前登録が必要である。そして、この事前登録は一朝一夕でできるものではない。
そのため、司法書士又は司法書士法人の大半は特定事項伝達型を利用した取引時確認ができない。
そこで、本人限定受取郵便を利用する場合には基本型又は特例型を利用することになる。
しかし、「送付による取引時確認方法の要件を充足するか否か」という観点においては、本人確認書類の住居への送付の際に書留・転送不要郵便に加えて、本人限定受取郵便の基本型又は特例型のオプションを利用する実益はない。
もっとも、本人確認のプロセスとして本人限定受取郵便の基本型又は特例型を利用することは望ましく、司法書士の職責として重要なことではあろう。