瑕疵担保責任と契約不適合責任

改正の経緯

序論

平成29年5月26日に、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立した(同年6月2日公布)。
民法の債権関係の規定は、民法が制定された後、約120年間ほとんど改正がされていなかった。そこで、取引社会に重要である契約に関する規定を中心に、実社会に則し、国民がわかりやすい法令に改正された。
この改正は、一部の規定を除き、令和2年4月1日から施行されている。

問題の所在

  • 従来の瑕疵担保責任は、「隠れた瑕疵」の解釈について不明確な部分が多かった。
  • 売主が負うべき責任の内容を明確化し、買主の権利救済をより実効的に図る必要性があった。
  • 瑕疵担保責任は知ってから1年以内に権利行使が必要であった。これが買主にとって大きな負担であった。

改正の方向性

  • 売主の責任につき、「特定物債権特有の瑕疵担保責任」という枠組みではなく、特定物・不特定物を問わない債務不履行責任として位置付ける。
  • 「瑕疵」を、「契約不適合物」として定義し、明文化する。
  • 契約不適合責任では、「売主が契約に合致した物を給付したか」が問題となる。よって、瑕疵につき、「隠れた」という要件はない。
  • 契約不適合責任は知ってから1年以内にその旨の通知をすればよく、権利行使までは不要とする。
  • 売主に損害賠償請求をするには、売主の帰責事由が必要とする。

MEMO
旧民法570条の「隠れた」の解釈により、改正前は買主に善意無過失が要求されていた。

危険負担

旧民法534条1項では特定物債権の危険は、債権者が負担すると規定されていた。

例えば、中古自動車の売買をする場合に、売買契約後、引き渡しまでに債権者(買主)及び債務者(売主)双方の帰責なしに中古自動車が滅失した場合、債権者(買主)は売買代金の債務を依然負うとされていた。

この改正で旧民法534条は削除され、特定物債権につき、債権者の負担を定めた条文はなくなった。

そして、原則、債務者負担とされた(民法536条1項)。

前提知識

特定物債権

特定物とは、取引において当事者が取引物の個性に着目した物である。

例えば、中古自動車売買の場合、販売店にある自動車を特定して売買される。

つまり、契約当事者は店舗にある「その」自動車を取引の対象としているのであり、同種の自動車を他の店舗から取り寄せて売買することは契約上想定されていない。

よって、「その」自動車の個性を着目し、売買契約していると言える。

そして、特定物債権とは特定物の給付を目的とした債権である。

また、特定物の給付を受ける側から見た場合は「特定物債権」と表現されるのに対し、給付をする側から見た場合、「特定物債務」と表現される。

特定物ドグマ

特定物債務は特定物をそのまま引き渡せば債務の履行が完了する。

仮に、特定物に傷や不具合があったとしても、債務不履行責任とならない。

この考え方を、特定物ドグマという。なお、特定物ドグマは本改正により否定された。

しかし、特定物ドグマを徹底すれば、買主が不利益を被ることが多い。

そこで、この不合理を是正する制度が瑕疵担保責任であった。

すなわち、特定物債務において、特定物に「隠れた瑕疵」がある場合に、売主に特別の法定責任を負わせるような規定が置かれていた。

これが改正前の瑕疵担保責任(旧民法570条、同566条)である。

※改正前の判例は瑕疵担保責任を特別の法定責任と位置付ける解釈をとっていた。

異同

  瑕疵担保責任 契約不適合責任
根拠条文 旧民法570条 民法562~564条
責任の性質 特別の法定責任(特定物のみ) 債務不履行責任(特定物・不特定物共通)
責任の内容 追完(民法562条)、代金減額(同563条)、損害賠償(564条、415条)、解除(564条、541条、542条) 解除又は損害賠償(旧民法570条、同566条1項)
損害賠償請求の場合の売主の帰責事由 不要 必要(民法415条1項)
目的物の種類又は品質の不備 知った時から1年以内に行使が必要(旧民法570条、同566条3項)。 知った時から1年以内に通知すればよい(民法566条)。
目的物の数量又は権利内容の不備 知った時から1年以内に行使が必要(旧民法570条、同566条3項、同564条、同565条)。 期間制限なし(民法566条参照)。
強制競売の場合 不適用(旧民法570条但書) 種類又は品質に関しては不適用(民法568条4項)
責任を負わない旨の特約 有効(旧民法572条) 有効(民法572条)