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建設業許可業者の法人成りの方法
個人事業主が法人を設立し、法人形態の事業に切り替えることを法人成りという。法人成りは節税目的で行われることが多い。そのため、法人の定款や役員構成は税理士と個人事業主の打ち合わせで決まることが一般的である。そして、司法書士は個人事業主と税理士が決定した事項を基に会社の設立手続きを代理する。
そして、これは建設業許可を取得している個人事業主が法人成りする場合も同様である。もっとも、この場合には建設業許可が絡むので法人設立においては税務上の対策だけでなく、建設業法との適合も考慮する必要がある。
建設業許可を取得している個人事業主が法人成りする方法には大きく分けて二つの方法がある。すなわち、法人で新規の建設業許可を取得する方法と個人事業主の建設業許可を法人に引き継がせる方法である。
法人で建設業許可の新規取得
法人で新規の建設業許可を取得する方法では、法人を設立し法人が個人事業主と同じ業種の建設業許可を新規で取得する。しかし、建設業許可を取得するには法人に経管(経営業務管理責任者)と専任技術者を置かなければならない。個人事業主の場合、個人事業主本人が経管と専任技術者であることが多いので、この場合に法人の経管と専任技術者を個人事業主本人とすると、既存の個人事業主の建設業許可において経管と専任技術者が不在の状況が発生する。そのため、法人成りの場合に法人で建設業許可を申請すると、同時に個人事業主の建設業許可は廃業する。
譲渡及び譲受け
そこで、個人事業主の建設業の廃業を避ける方法として、個人事業主の建設業許可を法人に引き継がせる方法が認められるている。この方法は「譲渡及び譲受け」と呼ばれる。譲渡及び譲受けとは個人事業主が法人に対し建設業許可にかかる事業の全部を譲渡し、譲受人が譲渡人の建設業者としての地位を承継することを意味する。
譲渡及び譲受けの手続きでは、まず、譲渡人及び譲受人が譲渡及び譲受けのための事業譲渡の契約をする。次に、かかる事業譲渡につき管轄官庁の認可を受ける。そして、認可申請時に定めた譲渡及び譲受けの効力発生日に譲渡及び譲受けの効力が生じる。
そもそも譲渡及び譲受けを行う目的は建設業許可の空白期間の解消にある。すなわち、建設業許可を受けている者が事業を譲渡する場合に、譲渡及び譲受けを行わず、譲受人が建設業許可を新規で取得するとき、譲渡人及び譲受人で経管や専任技術者が共通であれば、譲受人の建設業許可申請時から許可が下りるまでの間、譲渡人の経管及び専任技術者が不在となり、この間譲渡人及び譲受人いずれも建設業許可を有しないという事態が生じる。これが建設業許可の空白期間である。もっとも、法人成りの場合、管轄官庁がこの空白期間に個人事業主の従前の建設業許可の効力を認める取扱いをしていることが多い。そのため、空白期間の解消という点においては、法人成りの場合に譲渡及び譲受けをする必要はない。法人成りの場合に譲渡及び譲受けをする実益は従前の個人事業主の建設業許可の許可番号を引き継げる点と収入証紙の節約にある。
また、法人成りにおける譲渡及び譲受けには2つの方法がある。すなわち、法人設立前に発起人と個人事業主で事業譲渡の契約をした上で法人設立前に管轄官庁に認可申請をし、法人設立と同時に譲渡及び譲受けの効力を生じさせる方法と、法人設立後に法人と個人事業主で事業譲渡の契約をした上で管轄官庁に認可申請をし、効力発生日に譲渡及び譲受けの効力を生じさせるパ方法である。ここでは前者を「法人設立前の譲渡」と、後者を「法人設立後の譲渡」と呼ぶ。
法人設立前の譲渡
法人設立前の譲渡の場合、法人設立と同時に譲渡及び譲受けの効力が生じるので、法人は設立と同時に事業を開始できる。そのため、法人設立と法人の事業開始にタイムラグがなく、スムーズに法人成りができる。しかし、この場合、法人成りする法人が株式会社であれば、株式会社の設立時に変態設立事項である財産引受が必要となるため、定款認証までの過程が煩雑になる。また、財産引受の金額が500万円を超える場合には検査役の選任などが必要となる。
なお、この方法による申請を受け付けない管轄官庁があるので、この方法を検討する場合には事前に管轄官庁に確認する必要がある。
法人設立後の譲渡
法人設立後の譲渡の場合、財産引受は不要であるから法人設立の手続きは法人設立前の譲渡の場合より簡易にできる。しかし、この方法では法人設立後に認可申請をするので、法人設立と法人の事業開始にタイムラグが発生する。具体的には法人の事業開始まで法人設立から1か月以上かかる。
比較表
法人で建設業許可の新規取得 | 法人設立前の譲渡 | 法人設立後の譲渡 | |
空白期間 | 理論上は生じるが、管轄官庁が生じないよう配慮してくれると考えられる | 生じない | 生じない |
許可(認可)申請の手数料 | 必要 | 不要 | 不要 |
定款の変態設立事項 | 不要 | 必要 | 不要 |
法人設立と同時に法人の事業開始 | できない | できる | できない |
許可の有効期間 | 許可日から5年間 | 許可の承継日から5年間 | 許可の承継日から5年間 |
許可番号 | 新たに発行される | 個人事業主のものを引き継ぐ | 個人事業主のものを引き継ぐ |
建設業許可業者の法人成りの流れ
ここでは法人設立後の譲渡の場合の流れを説明する。
建設業許可業者の株式会社設立の注意事項
ここでは建設業許可業者である個人事業主が株式会社を設立し、事業を株式会社に移行をする際の設立登記の注意事項を説明する。
商号
商号につき建設業法上の制約はないが、銀行口座開設や社会的信用の観点から個人事業主の事業の際に使用していた屋号を商号とするのが無難であろう。また、建設業者の場合は取引先に請求書を発行するので、請求書の発行者の商号と従前の個人事業主の屋号が異なれば取引先に無用な混乱をもたらすことになるので、これは避けるべきである。もっとも、設立する株式会社が建設業以外の業種も営むのであれば建設業にかかる屋号と異なる商号を用いることもありうる。
本店
本店所在地については、個人事業主の事業所の住所を本店所在地にすることが多いと思われる。
目的
目的には個人事業主で取得済みの建設業許可にかかる業種を入れる(例:大工工事業)。また、今後取得予定の業種があればそれも入れておく。
資本金
資本金は500万円以上にすることが望ましい。というのも、建設業の許可要件には「請負契約を履行するに足る財産的基礎又は金銭的信用を有している」という項目がある。そして、一般建設業の場合、自己資本が500万円以上あればこの要件を満たす。そのため、資本金を500万円以上にしておくと建設業の申請時に添付書類を集める手間が軽減される。もっとも、資本金が500万未満でも別の方法でこの要件を具備することができるので、資本金500万円以上は必須ではない。
代表取締役
一般に法人成りの場合には個人事業主本人が代表取締役になることが多い。また、個人事業主の法人成りを目的とするに譲渡及び譲受けの場合には個人事業主本人が代表取締役に就任することが譲渡及び譲受けの認可要件である。
取締役
株式会社の経管は取締役でなければならない。よって、個人事業主本人が経管であれば個人事業主を代表取締役に就任させれば足りる。これに対し、個人事業主本人ではない別の者が経管であればその者を取締役に就任させる。また、今後経管の経験を積ませたい者がいる場合にはその者を取締役に就任させる。