退職慰労金の給付

取締役の報酬等

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下、「報酬等」)は原則株主総会の決議で定めなければならない(会社法361条1項)。

会社法361条1項の趣旨は取締役が自己の報酬等を過大定めること(お手盛り)を防ぐことにある。

退職慰労金の性質

そこで、退職慰労金が取締役の報酬等にあたるかが問題となる。

すなわち、退職慰労金が取締役の報酬等にあたれば退職慰労金を支給するためには原則株主総会の決議を経る必要がある。

この点につき、退職慰労金は取締役の退任後に支給されるものであり、これを受け取る取締役はその支給の可否の決議に参加しない。よって、退職慰労金は報酬等に該当しないとも思える。

しかし、次の点から報酬等に該当すると解されている。

  • 退職慰労金が取締役の報酬の後払い的性質を有する点
  • 取締役が将来の自己の退職時のために過大な退職慰労金の給付を先例や慣行にする、お手盛りに準じた弊害がある点

退職慰労金の給付と不動産

実務では退職慰労金の給付として不動産を支給したいと考えることがある。

例えば、清算中の株式会社が、退任する取締役への退職慰労金の給付として株式会社保有の不動産を支給する場合である。

もっとも、退任する取締役はそのまま株式会社の清算人となることが多い。

そうすると、退職慰労金の給付を受ける元取締役は、清算人として株式会社を代表する。そのため、利益相反取引を検討することになる。

事案

  1. 清算中の株式会社が不動産を所有している。
  2. 株式会社の清算人はAのみ。
  3. Aは株式会社の元取締役である。
  4. Aに対し退職慰労金として、株式会社所有の不動産を給付したい。

この場合には退職慰労金の給付について株主総会の決議を経る。

なお、前述のとおり退職慰労金の給付が利益相反取引に該当するかいう問題があるが、いずれにしろ株主総会の決議を経ているのでこの問題を追及する実益はあまりないだろう。

退職慰労金の給付の登記

申請書

登記の目的 所有権移転
原   因 年月日退職慰労金の給付
権 利 者 A
義 務 者 〇〇株式会社 清算人 A

登記の原因

原因日付は次のいずれか遅い日である。

  • 株主総会の決議の日
  • 給付を受ける者の、給付を受ける旨の意思表示の日

なお、清算人Aは通常株主総会に出席するから、実際は株主総会の決議の日が原因日付になることが多い。

株主総会議事録

添付書類として株主総会議事録を添付する。

株主総会議事録は退職慰労金の給付が利益相反取引にあたれば承諾証明情報として、あたらなければ登記原因証明情報の一部として添付することになる。

株主総会議事録の記載は次のとおりである。

第1号議案
議長は当会社が年月日付で解散したことに伴い、当会社の代表取締役を退任したAに対し、退職慰労金として下記の不動産を贈呈したき旨を述べた後、その可否を議場に諮ったところ満場一致で了承した。

不動産の表示