建物増築登記と贈与

建物増築の登記方法

建物増築の事例

父名義の建物につき、子が住宅ローンを組んで増築をした場合の手続きに関する事例。

まず、表題部の登記の種類が問題となる。

次に、贈与税・住宅ローン控除・不動産取得税などの税金が問題となる。

さらに、税金を抑えるための所有権登記が問題となる。

建物増築の場合はこれらに加えて融資上の問題もあり、複雑化するので工務店の設計段階で専門家の意見を踏まえるべきであろう。

区分建物の登記

増築部分が独立の建物と認定できれば区分建物の登記が可能である。

増築部分が独立の建物と認定されるということは、増築前の部分と増築部分が、同じ棟の区分建物であることを意味する。

区分建物の要件を満たすには、各々の建物につき構造上の独立性及び効用上の独立性がなければならない。

例えば、増築部分に、増築前の建物とは別の出入口がなければならない。

区分建物の要件を満たせば、子(=増築費用を負担した者)を所有者とする表題登記が可能である。

そして、その場合は後述の贈与税の問題等は生じない。

附属建物新築の登記

附属建物総説

一般に、母屋を主である建物、離れを附属建物として登記する場合の要件は下記である。

  • 母屋と離れが効用上一体として利用される。
  • 離れを附属建物として登記することに所有者が同意する。

そして、附属建物は、1つの建物として物理的な独立性を有していなければならない。

但し、建物の物理的独立性の要件は表題登記よりは緩い(例:車庫を附属建物にする場合。)。

また、附属建物の登記の場合、主である建物と附属建物の所有者は同一でなければならない。

主である建物が共有であれば、附属建物の共有者及びその持分は主である建物と一致している必要がある。

増築部分と附属建物

建物増築の場合、増築部分が附属建物と認定されるのは極めて稀である。

増築の場合は増築前の建物と一体化していることが多いからだ。

なお、本事例では仮に増築部分が独立性の要件を満たしていたとしても、所有者が異なる(増築前の部分は父親、増築部分は子がそれぞれ所有している。)ので、附属建物として登記することはできない。

増築による変更登記

区分建物の登記と附属建物新築の登記がだめならば、本事例では建物増築による表題部の変更登記(以下、「増築登記」という。)をすることになる。

そもそも、建物増築の場合、前述の方法(区分建物の登記及び附属建物新築の登記の可否)を検討することなく、素直にこの方法を選択するのが自然の流れである。

それにも関わらず、前提として前述の方法を検討したのは増築登記は贈与税の問題をはらんでいるからである。

建物増築と贈与税

問題の所在

増築登記は表題部の変更登記でされ、権利部に影響はない。

そうすると、増築費用を負担したのは子であるのに、権利部に子の名義が反映されない。

これでは子から父へ、増築による建物価値増加分(=財産的価値)の移転が生じていることになる。

よって、これが子から父への贈与とみなされ、父に贈与税が発生する。

贈与税の回避

そこで、この贈与税を回避する方法の有無が問題となる。

この点、国税庁のWEBページにも回避の方法が記載されてある。

しかし、このページには「建物の名義を移転すればよい」という記載がされているだけで、具体的な手続き方法(登記原因や原因日付など)の言及がない。

建物増築と住宅借入金等特別控除

ところで、住宅ローンを利用して建物増築をする場合、ローンにつき住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用を受けるには、建物増築前に借入者が建物所有権を有していなければならない(租税特別措置法41条1項柱書参照)。

本事例では、増築工事着工前に父から子へ建物の所有権(一部)移転登記しなければならない。

なお、この場合は必ずしも所有権全部を移転しなければならない訳ではなく、借入者の所有権は共有持分でも構わないと解される。

建物増築と不当利得返還請求権

不当利得返還請求権の性質

不当利得返還請求権の発生原因は以下の通り(民法703条)。

  1. 一方の受益
  2. 他方の損失
  3. 受益と損失の因果関係
  4. 受益と損失の法律上の原因不存在

これを本事例に当てはめると下記になる。

  1. 父名義の建物価値増加
  2. 子の増築費用負担
  3. 増築と建物価値増加の因果関係
  4. 父と子との間に契約無し

よって、子は父に対し不当利得返還請求権を有する。

なお、4の要件の充足については疑義がある。

不当利得返還請求権の弁済

そこで、父が子に不当利得返還請求債務を弁済すれば、贈与税の発生を回避できる。(増築費用が多額であれば分割支払いになるだろう。)

この方法は不動産の権利部を変更しなくて済むが、下記の問題がある。

  • 子が住宅借入金等特別控除を受けれない。
  • そもそも父が子へ債務の弁済するならば、最初から父の費用負担で増築工事をするので、現実的にあり得る話でない。(教室事例にすぎない。)

不当利得返還請求権の代物弁済

前述の不当利得返還請求債務につき、金銭の支払いに変えて、建物の所有権を譲渡する方法が考えられる。

すなわち、建物所有権の譲渡する契約(=代物弁済契約)を父と子で締結する方法である。

但し、これには以下の問題がある。

  • 代物弁済契約は不当利得返還債務が発生していることが前提なので、建物増築前に代物弁済を登記原因とする所有権の登記をすることはできない。
  • 故に子が住宅借入金等特別控除を受けれない。

代物弁済契約をし、かつ、住宅借入金等特別控除を受けるならば、増築前と増築後の2回に分けて所有権の持分を移転する登記をしなければならない。

この場合の増築前の登記は、住宅ローン控除の要件を満たすためだけにするものなので、移転する持分はわずかで構わない(例:贈与税の発生しない基礎控除の範囲内で持分移転。)。

建物増築と贈与登記

理論的には代物弁済による登記が最も実態に適合している言えるだろう。

しかし、代物弁済の場合、住宅借入金等特別控除の適用を受けるならば、所有権の登記を2回する必要がある。

そこで、増築前に「増築による価値増加分」に対応する「所有権持分」を子に贈与すれば、登記が1回で済み、かつ住宅借入金等特別控除の適用を受けられると考えられる。

これは下記の行為が等価交換的にされることにより贈与税が発生しないという理論構成をとる。

  • 子から父への増築工事による価値増加分の財産移転
  • 父から子への建物持分の移転による建物価値の財産移転

ここで、上記の理屈、すなわち、「贈与された分を、贈与で返せば贈与税が発生しない。」という理屈が通るのかは疑義がある。

しかし、現状不動産登記実務ではこのような事例で使用するための、適当な「登記原因」がない。

したがって、二つの贈与が時間的に近接していれば、等価交換として認定した上で、このような考えを容認せざるを得ないだろう。

個人的には「建物増築による代償譲渡」のような登記原因を認めればすんなりいくと考える。

また、建物の価値が低ければ、増築前に所有権全部を子に贈与するのも手である。

建物増築変更と権利部変更のタイミング

本事例で、子が住宅借入金等特別控除の適用を受けるには、増築工事前に子が建物の所有者(共有者)である必要がある。

また、代物弁済によって父から子へ所有権移転登記するのは増築工事後である。

一方で、贈与によって父から子へ所有権移転登記するのは増築工事の前後どちらでもよい。

これを表にまとめると以下になる。

  増築前の権利部の変更 増築後の権利部の変更
住宅借入金等特別控除適用 不可
代物弁済による所有権移転登記 不可
贈与による所有権移転登記